誓戦心中

 次第に熱を帯びる、雅巳の口調。
 それは、俺に対する宣戦のよう。

「覚悟してるのよ、それくらい。逃げたいのなら、もうこんなところにはいないわよ」

 今までどんな想いで、雅巳は、俺を見ていたのだろう。
 一切笑わない俺を。
 何も語ろうとしない俺を。
 手垢塗れの俺を。

 ねぇ。

「隼人の支えになれるなんて思ってない。それでもわたしは、わたしの意思で、隼人の傍にいようって決めたの。そこに、外からの強制力はないのよ」

 例えきっかけが、仕組まれたものだとしても。
 好きになって、好きで居続けることは、自分が決めたこと。

「だから、連れて行って。隼人の堕ちる底無しの闇に。何の助けにも、慰めにもならなくても、わたしが隼人と同じ目に遭うことで、わたしは納得するから」

 一瞬、その雅巳の言葉に、眩暈がした。
 そんなことを言って欲しくない俺がいた。
 でも同時に、そのすぐ横には、安堵に震える俺もいて。

 そんな切羽詰まった救いに縋るなんて、もう、どうかしている。

 黙ったままの俺に、雅巳は暫く真っ直ぐな視線を寄越していた。
 けれど、ふっと緊張の糸が切れたかのように、瞼を閉じて、俯く。

「……ごめんなさい。でも、耐えられるかどうかは……また別の話になっちゃうことは、覚えておいて」

 大見栄を切ったはいいけど、と雅巳はごにょごにょと喋る。
 それは、怖い気持ちもあるけれど、雅巳なりの誠意だった。

「こんな、未熟なままで、確かな約束のような……軽率な発言は出来ないから」

 今、この状況で、そう強く約束したい気持ちは本物だった。
 雅巳の迷いは、雅巳も、そして俺もが、本気で憂いを覚えている所為。
 本気で互いのことを助けたいがためなんだ。

「……何よりも、自分をそんな信用ならない人間にしたくないもの……」

 本当のことしか言いたくない。
 雅巳はそう、凛とする声で告げた。

 気付くと、太陽が半分顔を出していた。
 すっかり周囲は、空も海面も明るくなっている。
 雅巳の顔が、よく見えているわけだ。
 泣きそうな瞳だった。

「……ありがとう」

 そっと、一歩雅巳に近寄って、雅巳の髪に触れる程度、自分の顔を寄せた。

 猶予期間はもう終わり。
 雅巳が居てくれるなら、多少のことには目を瞑ろう。
 視えなければ、「無い」も一緒だ。


2019.1.2
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