夏用作務衣

「……多少の暑さは我慢せぇ、ってことかね」

 やっぱダメかー、と畳に仰向けになって、天井を仰ぐ。
 暑いよー、と駄々を捏ねる俺に、魅耶が笑う。

「そうですねぇ……確かにこの暑さでは、もっと薄着で過ごしたいですね」

 そう魅耶は俺の気持ちを汲んでくれるけど、魅耶自身はさほど困っていない様子だった。
 此処にいるときの条件はお互い同じなんだけど。

「魅耶は暑くない? 作務衣」

 言い方は悪くなるんだけど、魅耶っていつも涼しい表情してるんだよなぁ。
 あんまり気温の変化に振り回されてないっていうか……。

「何かこう、秘策でもあるの? 汗腺コントロールとか」
「何ですかそれ。魔術の一種みたいに言わないでください」

 むくり、と起き上がって、俺は魅耶に訊ねた。
 魅耶は呆れたようにちょっと笑い顔で受け答えた。

「んー、特に何もしてませんよ。ただ、これは僕の感想なのですが……やはり華倉さんはよく動いている所為かと思います」
「よく動いてる?」

 魅耶が俺を見て、柔らかく言った。
 きょとんと繰り返す俺に、魅耶は頷く。

「動きが豪快とも言えるし、全力とも言えるし。まぁ、僕と比べて、なのですが、華倉さんは言動のひとつひとつに活力が見て取れる。言動の総てに熱が込められてるんですよね」

 だから少なくとも僕よりは、体力を使っているんじゃないかと。
 魅耶はそう説明した。

 ……それって、やってること、某松岡〇造と一緒?
 熱く生きているってことで、褒めてるのだろうか?

 なんて、色々考えてしまい、気にしながら聞いていたので、はぁ、と曖昧な反応しか出来なかった。
 要するに何だ、とでも言いたげな目をしていたのか、そんな俺に魅耶はまとめて言い直す。

「今の生活が楽しくて仕方ないんですよ、華倉さんは」

 ただ無邪気に。
 翌日疲れが残ると分かっていても、その時に全力でやってしまう。
 まるで永遠に思えた夏休みの途中。

「……褒めてるのか、それは?」

 何かやっぱりうまく理解出来ない。
 成長してないってことでは、と勘繰ってしまう俺。
 しかし魅耶は笑って、褒めてます、と答える。

「素敵ですよ華倉さん。僕は幸せ者です」

 って。

 何か、直接的な返答ではなかった気がするんだけど。
 でも、その魅耶の笑顔は、その時の表情は、紛れもなく「本当」だったから。
 うん、とだけ、返しておいた。

 でも何か照れる。
 ので、何の話してたっけ、と話題を変えようとわざとらしく口に出す俺。
 すると予想外に、魅耶がこう発言した。

「作務衣を甚平に、って話です。ダメ元なら、本家に特注で頼んでみてはどうですか? 甚平のように軽くて、動きやすい作務衣を」

 ……おお。

「そういう手があったか」

 ぽん、と手を叩いて俺もその意見に賛同した。
 魅耶頭良い! さすが!


 んでその1週間後。
 かなり希望通りの作務衣が届いた。


2018.7.14
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