酷暑体験

「気を付けていたつもりだったけど」

 よっこら、と起き上がる俺。
 そんな俺に、はい、と魅耶がいつものあれを差し出す。

 梅干しの蜂蜜漬けである。
 これはどうやらここ総本山にずっと受け継がれているらしい食べ物で、専用の甕(かめ)があるほど。
 昔から暑さ自体との闘いは存在していたらしい。

「……ん? 鳳凰って暑さに強いの?」

 ほい、と魅耶が鳳凰にも梅干しをあげている様子を見ながら、ふと、先ほどの言葉を思い出す。

 暑さに強い個体、って言ってたな。
 鳳凰はまだ梅干しに慣れてなくて、幾ら蜂蜜に漬けれているとは言っても、酸っぱさが勝るようで、うぅ~、とか言っている顔で頷く。

「そうだ……自然界から見れば、我は炎関係のエネルギーの加護を受けている……」

 何かすげぇカッコいいこと言ってるんだけど……完全に梅干しに負けた顔してるので……笑える。
 そうか、と笑いを堪えて、俺は相槌。

 けれど、すぐに一度深呼吸をして、呟く。

「そんな大いなる聖獣に、麦わら帽子被せて野良作業させてるとは……」

 何か罰当たりなことしてるなー、としみじみ思い直してしまった。
 俺が幾ら憂神子とは言え、鳳凰の元伴侶とは言え。
 ただの一介の人間が、鳳凰相手にさせていいことじゃねぇなぁ……。

 ちょっと罪悪感を抱き始めていた俺。
 しかしそんな俺に、魅耶の淡々とした声。

「大丈夫ですよ華倉さん。こいつは好きで此処に来るんです。飛んで火に入る夏の虫さながら、此処では地位とかそんなもん関係ないです」

 ずず、と麦茶を啜り、魅耶は告げる。
 此処に来たら、その時だけは、どんな相手だろうが関係なく、皆同じ作業をする。

 だそうだ、と俺は魅耶の言葉の後ろにそうくっつけて、鳳凰を見た。
 鳳凰も意外と気にしていないらしい、ははは、と笑って答える。

「ああ、それがいい。我にとってもより正確な監査になる。それに、行為自体がとても愉快だ。この帽子などもな」

 そう言いながら、麦わら帽子を取って、ぽすんと被る。
 妙にお気に入りなんだよな、鳳凰。

 風通しはよく涼しい、でも暑さは避けてくれて、軽い麦わら帽子。
 夏場の農作業には欠かせないアイテム。

 だけど。

「……どっか似合わないよなぁ~」

 鳳凰の顔と、麦わら帽子って、ちぐはぐ。
 じっと観察してしまう俺に、鳳凰は不思議そうに「そうか?」と訊ねて来る。
 しかし、自分の麦わら帽子を取ると、それを俺の頭に被せて、続ける。

「それに、砂蔵も土いじりが好きだったからな。一度我も、やらねばなるまい、と思っていたところよ」

 ……あぁ。

 何だか、逆に申し訳ない気持ちになった。
 でも、俺がその感傷に浸る暇はなく。

「いちゃつくんじゃない!! そこまで許可してねぇぞアホ鳥!!!」

 ズバァッッ、と魅耶の手刀(※光速)が鳳凰の手を払いのけた。
 ち、と舌打ちする鳳凰と俺との間に割って入る魅耶。

 全くお前は隙あらば!! 当たり前だろうが馬鹿め!! などと聞こえるふたりのやり取りを聴きながら、俺はちょっと笑っていた。


2018.7.14
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