選んで

 裕に心配してもらうほどのことでもないんだ。

「……ん」

 しかし裕はすっきりしない表情。
 ペンを持つ手でそのまま頬杖を付いている。

「何その落ち込み顔! 何が不満なの裕!?」

 俺が逆に気になって、がたん、と立ち上がる。
 その俺の言動に、裕は自分の気持ちに気付いたようだ。

「えっ!? や、別に……その」

 慌てる裕。
 そんな裕の優しさっていうか、溜め込み癖、嫌い。

「言いなさい。何か気掛かり?」

 裕には、何でも言って欲しいんだ。
 好きも嫌いも、つらいも嬉しいも。
 裕の全部を把握したい、っていう、俺の我儘。
 多分裕はそんな俺の我儘なんか、全然知らないんだろうけど。

「……やっぱり複雑」

 なんて、言い出す。
 何が、と訊ねると、裕は俺から視線を外しながら、答える。

「だって、俺は……浅海にも華倉と仲良くして欲しい、から」

 ……。
 俺の我儘、は、高確率で、俺にダメージを与える。

 まじで?
 俺、撃沈して椅子に座り直す。
 それ、は、出来ない相談。

「……ほら、無理っしょ?」

 裕にはそれが読めていた様子。
 だからかー……。

「済まん」
「いや、別に……」

 すっぱりと謝る俺。
 裕が逆に戸惑うほど、清々しい拒絶である。

 けれど。
 ふふっ、と笑う、裕の声。
 何、と思って顔を上げると、裕は微笑んでいた。

「でも俺、浅海のそういうとこ見るの、すき」

 さっぱりした態度。
 と。

 ……。
 あーもう。

「おれもです」
「え?」

 小声で、本当に小さい声で、俺は返答した。
 裕がきょとんとしてるけれど、気にしない。

 好き。
 好きだから。

 早く俺選んで。


2017.4.25
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