愛し、背の君。

 あっはっは、と陽気に笑いながら、浅岡が言う。
 確かにそれは、一理あるな。

 浅岡のこういうところが、鳳凰に好ましい感情を抱かせていた。
 それは、こちらが抱く形になる前の想いを、あっさりと言語化して共有出来るスマートさ。
 そんな能力の高さを垣間見るに、この人間は、やはり作家なのだな、と改めて感心する。

「っ、おぉっとぅッ!!!」

 しかし突然、浅岡が大声を上げた。
 何だ、と吃驚して鳳凰が浅岡を呼ぶと、浅岡がややしゃがみ込んで答える。

「花壇があった。危うく侵入して踏んじゃうところだったよ」

 危ない危ない、と繰り返す浅岡の横から、鳳凰も足元を覗く。
 そこには、造り掛けらしい、半分ほど花が植えられた花壇があった。

「でも今時珍しいねぇ、地面とほぼ同じ高さに花壇設けるって」

 よっしょ、と立ち上がりながら浅岡が言う。
 そうなのか、と訊ねる鳳凰に、浅岡が頷く。

「だと思うよ~。ほら、子供が入っていたずらしたり、犬が粗相したり色々五月蝿いから」
「ほう」

 なるほど、と眉を顰めて、鳳凰は呼応した。
 その手の小競り合いも廃れないな、と呟く鳳凰に、浅岡が吹き出す。
 人間がコミュニティーを維持する限りはねぇー、と淡々と返し、浅岡は花壇の傍のベンチにチューハイを置いた。

「この辺ならお取り込み中の人もいなさそうだね」

 ようやく落ち着けられるー、と座るのが先がチューハイを開けるのが先か、浅岡が間を置くことなく取り掛かる。
 鳳凰は一旦立ったまま、自分のチューハイを開けて、乾杯する。

 前回の続きなのだが、と前置きもなく、本題へ入った。

 それから話は途切れることなくあっちへ飛び、こちらへ移り。
 酒もみるみる進んで(何せ喋り続けているので喉が渇くのだ)、最後の1本を空けてしまった。

 しかしその場から動くことすら惜しく、暫くは空の缶を握り締めたまま、お互いの話に真剣だった。

 人気のない場所。
 お互いの声を遮る雑音もない。
 集中出来る程度に辺りは暗く、語れば語るほど、分からないことが出て来る相手。

 この感覚、どこかで。

「そっか、今思えば、あれって一種の呪術だったのかな」
3/5ページ
スキ