カウントダウン


 俺は遠慮がちに触れていた桑嶋さんの肩から、静かに手を離す。
 しかし。

「篠宮先輩こそ危ないじゃないですか!」

 がっ、と俺の両手を掴み、何故か桑嶋さんがそう叫ぶように返した。
 え、と突然のことに面食らう俺。
 何も言えずに桑嶋さんを見返している俺に、桑嶋さんは続ける。

「わたしのこと庇って、腕に痣でも出来たらどうするんですか! ううん、それ以上に、運悪く頭とかに当たってたら! そうなるかも知れなかったんですよ!?」
「ば……大袈裟だなあんたは。それくらい大丈夫だって」

 異常な心配っぷりを見せる桑嶋さんに、俺は何だか気が抜けた。
 何をとんちんかんなことを、と思っていたんだけど、そうは言い切れません、と桑嶋さんは言う。

「先輩、ただでさえ今日も寝不足でしょう? それに昨日より顔色も青いですし……ちゃんと食べてないのか、手もこんなに冷たいし……」

 ぎゅ、と俺の両手を掴む桑嶋さんの手に、軽くだが力が込められる。
 予想外の言葉に、え、と高めの声が出た。

 確かに昨日はあんまり、と答える俺に、桑嶋さんは頬を膨らませる。

「昨日だけじゃないはずです。クマ、しょっちゅう出来てます。そんな状態で……本とは言え、衝撃を受けたら……大丈夫かどうかなんて分かりませんよ」

 語尾が消え入るような言い方だった。

 それから桑嶋さんは掴んでいた手を解き、ごめんなさい、と急にしおらしく謝った。
 何に対する謝罪なのかは、いまいち把握出来なかった。

 ただ、俺のことよく見ているんだな、とそのことに気を取られていて。
 桑嶋さんの言うことも、一理あるな、と感心していた。

「……済まなかった」

 これは第一に、己の体調管理の甘さ。
 第二にそれを指摘してくれたこと。
 それから、彼女に、そんな表情をさせてしまったこと、への。


***


 多分その贖罪のつもりで、俺は今インターネットで調べものをしている。
 桑嶋さんが教えてくれたレシピを、だ。

 さっきからそんな俺の手元を訝しげに覗き込む視線を感じるけど、取り敢えず自分の作業を終わらせることを優先する。

『少食なのは仕方がないとして、だったら出来ることなら、温かいものを食べてください。例えばミネストローネや具沢山の味噌汁とか』

 あまり量を取りたくないという俺の要求に対し、桑嶋さんは丁寧に提案をしてくれた。

 色んな野菜や発酵食品を手軽に摂れ、身体を温めてくれる。
 加えて具材は煮込まれているので、多少大振りでも量は気にならない。
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