カウントダウン
「そう言えば篠宮先輩、就活の方はどうですか?」
本棚から手際よく書籍を取り出しながら、桑嶋さんは俺に話し掛ける。
すっかり日課のようになってしまった、資料室での昼休み。
今日も桑嶋さんは遊びに来ている。
その内来なくなるだろう、と甘く見ていた俺は、今も彼女が飽きずに通っていることにまず驚き、そんな状態にすっかり慣れてしまった自分がいることに続けて驚いていた。
けれど正直、悪くはない、んだよな。
話は面白いし、本当に丁寧に俺の話も聞いてくれるし、俺の個人的な作業も手伝ってくれる。
おまけに手際もいい。
変な子、くらいに思っていた桑嶋さんが今では、不思議な子、くらいに昇格した。
……果たしてその認識が適切かどうかは置いておいて。
「あー、何とか2社から内定貰ってる」
桑嶋さんの方を見ずに、声だけでそう答えた。
何とか本命上位の2社からお声が掛かった。
話には聞いていたけど、本当に就活はしんどい。
精神だけでなく体力も大いに削られるのが実感出来た。
桑嶋さんは2年生なので、まだ直接関わることじゃないだろうけれど、と思いながらも、とんでもない所業だったぞ、とか話を続けようとした。
より先に、桑嶋さんの「ほんとですかっ!?」という、黄色い声。
「凄いじゃないですか先輩! まだ夏休み前なのに、しかもこの不景気に2社も!!」
さすがです~! と何故か俺よりはしゃいでいる桑嶋さん。
そんなに凄いことじゃないぞ、と言おうと、ようやく桑嶋さんの方へ向き直った。
そんなタイミングだった。
喜びの余り、手を大きく振り回していた彼女の腕が、本棚に積まれた書籍の山に当たった。
その山は不安定な積み方をされていて。
ぐら、と山が大きく傾く。
「桑嶋っ!」
桑嶋さんの頭上へ、一斉に降り掛かる数冊の書籍。
その1冊1冊は、一般書よりも厚い。
突然のことに避ける間もなく、桑嶋さんは頭を両手で覆って小さくなる。
何とか俺の腕の方が早く、彼女に書籍を当てることなく、助けることが出来た。
目を瞑って小さくなった彼女の身体を引っ張って、自分の身を盾にするよう庇う。
どさどさっ、と床に雪崩れ込む書籍の山。
沸き上がった埃がキラキラ光る様子を眺めたまま、あっぶね、とつい呟いた。
「怪我ないか?」
結果として守るために自分の腕の中へ収めたとは言え、やや乱暴に彼女を扱ってしまったことに気付く。