「しかし大型連休（ゴールデンウィーク）だというのに、相変わらず静かだなこの家」

　先にスーパーに寄って一通り買い物を済ませてきた浅海が、リビングのテーブルに荷物を置いて言った。
　自宅である裕はもう慣れたもので、浅海に改めてそう言われてから「そうかもな」と笑う。

　勿論、遊びに出掛けていて、ではない。
　裕の両親はどちらも仕事で不在なのだ。

　今年は裕が短大を卒業して保育士として働き始めたばかり。
　多分時間取れるから、ということで会う約束をしていたものの、浅海はやはり心配ではあった。

　就活が始まるとはいえ自分はまだそれでも学生だ。
　社会人、それもハードワークが明確な保育士という職に就いた裕は、さすがに疲労が溜まっているのではないかと。

　ドタキャンされることも充分考えられた。
　勿論されたとしても浅海に文句はない。
　疲れているならきちんと休んで欲しい。

　けれど裕は約束していた通り呼んでくれた。
　今日は母親も夜勤だから誰もいないけど、と笑って。

「それもしかして持ち帰りの仕事？」

　テーブルの足元にある安物のカゴにまとめて入れられている紙の束を見付け、浅海はそう訊いていた。
　裕は頷いて、意外と事務仕事多くて、と言う。

　保育士は子供の世話を見る以上に、保護者対応と雑務に追われるらしい。
　裕が言うには「俺はまだ先輩の補助だから少ない方」だとか。

　無論、浅海には保育現場の内情はよく分からない。
　けれどこうしてパッと見た感じでは、裕は充分元気そうではあった。

　1ヶ月しか経ってないのだ。
　たかが1ヶ月、されど1ヶ月。

「でもまぁ昨日までほぼ1日中寝てたけどさぁ」
「それなりには疲れてんだな」

　やっぱりねぇ、と裕は笑う。
　それから浅海が買ってきた袋の中身を出し始めた。

「悪いな、1人で買いに行かせて」

　飲酒出来る年齢ではあるが、裕は酒よりも食事を選ぶ。
　大型連休の真っ只中の今は、荷物にはなるが時間帯を狙えば普段お目に掛かれない惣菜なんかが多く並んでいる。