【試作】身分階級ありの現代日本


「続きましては管理ナンバー18、こちらも売りに出されて間もない下男です」

 会場内にはマイクを通した経歴を読み上げる声が響く。
 大勢の客がひしめく薄暗い会場、その奥の中央の舞台上にはマイクを持った司会の男性と、売りに出された少年の姿が煌々と照らされていた。

 司会は持っていた資料に書かれた少年の経歴を全て読み終えると顔を上げ、「では10万円からです!」と高らかに宣言した。
 しかし入札する数はまばらで、チラホラと微々たる値段が挙げられるだけ。
 13万、15万、最後に出たのは25万円といったところだった。

 しかし、複数の声が止んだ辺りで、すっ、と客席は後方、隅の方に静かに座っていた一人の男が手を挙げる。
 淡々と、しかし会場全体に行き渡る澄んだ声で告げた。

「500万」

 一拍置いて、会場内がざわつき始める。

 司会も俄には信じられず、手を挙げたままの男に向かって訊き返す。
 桁が一つ違わないか、と。
 しかし男は眉一つ動かさず、再度同じ声色で「500万」と繰り返すのみだった。

 500万円という額を司会も勿論のこと、会場内の他の客も皆誰もが訝しく思った。
 舞台に上げられている対象の少年にそんな大金を出す理由などさっぱり見当が付かなかったのだ。

 少年は小柄で細く、実年齢に比べて発育が遅いように見えた。
 過去3度ほど売買されて来たようだが、どの家でも満足な扱いを受けて来なかったのだろう。
 見た目からしても再度下男として使うのは躊躇われた。
 すぐにでも死んでしまいそうな、そんな影を背負っていた。

 しかし男は真っ直ぐに、司会者とその少年を見詰めている。
 間違いでもなければ、嘘でもないと言いたげな眼差しだった。

 司会は念の為会場内を見渡し、他には、と訊く。
 しかし競り合おうという声はなく、まだ微かに動揺が見られるだけだった。

 わざとらしい咳払いを1つすると、司会はマイクを握り直して告げる。

「ではナンバー18の下男は、127番の落札で決定です」

 商談がまとまると同時に男は席を立った。
 周りの客の中から幾つもの視線が投げられる。
 あんな瀕死の少年に500万円も出したのは、一体どこの誰なのか。

「……もしかしてあいつ、東雲しののめ家の……」

 不意に誰のものとも分からぬ呟きが囁かれたが、それ以上広まることなく消えてしまった。


***


「只今戻りました」

 静かになされたノックに許可を下ろす。
 部屋に入って来たのは、先程少年を競り落として来た男だった。
 出迎えた男の方が年は若いが地位が上のようで、ご苦労と労いながら顔を上げる。

「無事到着致しました。今、舞衣子まいこが風呂の世話をしています」

 報告を受けた方――主人が静かに頷く。
 それから引き出しを開け改まった声で、額は、と訊いた。
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