わがまま


 お風呂から上がって、リビングに戻る。
 ソファーで寛いでいる雪路の頭が見えた。

 わたしは何も言わずに雪路の隣へ腰を下ろすと、そのまま自分の頭を雪路の膝に乗せる。

「亜紀?」

 雪路の視線には気付いてたけど、取り敢えず無視していた。
 そんな雪路がわたしに声を掛けるのは当然だっただろう。

 はぁ~、と深く大袈裟な溜め息を零す。
 いや、わたしとしては大袈裟とは冗談ではなかったわけだけど。

 暫しの間、何も告げずに雪路の膝でじっとする。
 雪路も特に何のアクションも取って来ない。
 多分様子見してるんだと思う。

 ぺしぺしと雪路の膝を軽く叩く。
 それからやっとわたしから口を開いた。

「……なでなでしてー」
「なでなで?」

 ちょっと恥ずかしさもあったので、それを誤魔化すためも含めて、ついでに何回か膝を叩く。
 雪路は少し驚いたような声色で返して来たけど、ん、と短く応えると、わたしの髪を撫でつけるように手を動かす。

 取り敢えずわたしの気が済むまでやって、と先に言っておいた。
 雪路は可笑しそうに笑いながら、いいよって答えた。

 雪路の膝を叩いていた自分の手を、雪路の膝を包むように置く。
 何か急に疲れが押し寄せて来た。

 確かにここ数日、気分も冴えないし目も翳むし、なんて思ってたけど。
 一応夜は眠れてたし、食事も問題なかったから、まだいけるだろうと踏んでいた。
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