【パラレル】不帰


 景色から輪郭が失われていく。
 色が赤1つに染まり始めてからそう時間は経っていない。

 ここまでの深傷(ふかで)を負わされたことに、鳳凰は改めて表情を歪ませた。
 実際のそれは相手への怨めしさか、負わされた痛みに耐えるためか。

 既に起き上がる気力すら残っていないらしい己の有り様に、鳳凰は地面に突っ伏して深く息を吐いた。

 完全に奇襲だった。
 幾ら不意を突かれたとは言え、恐らくもう少し早く気付くことも出来たはずだ。

 まだ何とか回る頭でぼんやりと自省の念を抱く。
 私もここで終わりか。

 指先に触れているはずの雑草の感触すら分からなくなってきた。
 こんなところで行き倒れるなど、聖獣としてあるまじき最期。
 しかしそれでももう、どうにも動けなかった。

 ――はずだった。

 これは最期の最期、逃避のつもりで見た夢か。
 鳳凰には初めそう感じられた、それほどに予期せぬ事が起きた。

 唇に触れる微かな温もりと己に呼び掛ける声。
 その時は何故か分からないが、舌先が僅かだが動かせた。
 何かを舐めたらしいことが分かる。

 途端、鳳凰の意識が急激に明瞭と戻る。
 閉ざされる寸前だった目蓋を力任せに大きく開き、止まり掛けていた心臓に酸素を送るために大袈裟なくらいに呼吸を繰り返した。

 こんなにも早く死後の世界へ着いてしまったのかと思った。
 しかし確認できる範疇ではあるが、そこはまだどうやら行き倒れる羽目になった森の中のままだった。

 どういうことだと意識と同じく戻ってきた痛みに耐えるように表情を歪めていた鳳凰の頭上から、良かったとの声が降って来た。
 その時ようやく、誰か人がいることに気付く。

 動かせる範囲で顔をそちらに向ける。
 いたのは小柄な少年だった。
 粗末な着物を纏い、旅人らしい装備を身に着けている。

「お前、が……」

 この男が自分を助けたのか。
 鳳凰は俄には信じることなど出来ない結論に思い至る。

 少年の手元には気付け薬のような類いのものは見当たらない。
 そもそも聖獣である鳳凰相手に一介の人間ごとき何が出来るというのだろう。

 それでも、今この場にこの少年がいること。
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