甘くしておいた。


「お帰り~」

 日付も変わろうかという真夜中。
 今日はこんな時間にようやく帰宅を果たした。

 しんどー、とかぶつぶつ漏らしながらリビングへのドアを開けると、そんな明るい声と共に、眼前に何かが現れた。
 同時に唇に触れるか触れないか程度の、弱い圧。

 俺が吃驚して動きを止めた一瞬に、裕の笑顔が視界に入った。

「お帰り」

 もう一度、そう告げる裕の手には、何か嵌められている。
 ただいま、と答える俺に、裕が手にしているそいつの口をパクパクさせて反応した。

「何それ」

 色々唐突過ぎて、考える前に訊いてしまった。
 裕は、ふふ、と楽しそうに笑って、パペット、と教えてくれた。

「今日蒔哉まきやが百均に買い物行ったんだけどさ、何か面白いもんあったー、って」
「買って来たのか」

 裕は笑いながら軽く話すのだが、俺にとってはちょっと気になるところ。
 蒔哉、結構目についたものすぐ欲しがるタイプなんだよな。

 そろそろ本気で金の使い方を教育する時期かな。
 と、我が子のこの先を案じる一方、やたらと楽しんでいる様子の裕が見られたと思うと、咎める気持ちも薄れてしまう。

「裕、そういうの好きだっけ?」

 パペットの口や手を交互に動かし続ける裕を見ながら、俺はそう訊ねた。

 取り敢えず鞄も片付けたいし、スーツも脱ぎたい。
 一旦寝室へ引っ込んで、洗濯物をまとめる。
 途中、子ども部屋を静かに覗き見て、呑気な寝顔を確認。

 ついでに洗濯機を回して、とまでやっていたら、飯はー、と裕の声が飛んできた。
 軽めのものをお願いして、リビングに戻ると、具沢山のスープが用意されていた。

「浅海、明日は早く帰って来れる?」

 スープを食べ始める俺の隣に座りながら、裕がそう訊いて来る。
 何で、と返すと、明日は蒔哉が学校で球技大会なんだそうで。
 そういやそういうのがあること自体は蒔哉から聞いていた。

 明日だったか、と記憶を巡らせている俺に、裕が続ける。
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