区切り


「紀久ちゃん……今何て?」

 予想外の言葉を紀久の口から聞かされて、華倉は自分でも驚くほど動揺してしまった。

 正直、本気で聞き間違えたのだと思いたいほどだった。
 けれど紀久は浮かない表情のまま、もう一度華倉に告げる。

「私を祓ってください、巫女様」

 一緒に聞いていた魅耶も、紀久の傍に付いていた鳳凰も、すぐには言葉が紡げずにいた。

 それは翌朝のこと。
 結局紀久は一晩鳳凰と一緒に過ごしていた。

 華倉も心配ではあったものの、まだ魅耶としておきたい話もあったため、鳳凰に残ってもらったのだ。

 紀久がちゃんと眠れたのかどうかは、傍にいた鳳凰にも判断が出来なかった。
 ただ、随分落ち着きを取り戻しており、朝もちゃんと挨拶をしてくれた。

 しかしその流れでのこの申し出である。

「紀久ちゃん……」

 理由は何となく分かっていた。
 だから華倉も、掛ける言葉が見付からなかったのだ。

 昨晩、ときと灯吉が最鬼に食われてしまった。
 紀久は恐らく、それを目の当たりにしてしまったのだ。

 食われた魂はもう戻って来ない。

 紀久は考えたのだろう。
 一晩必死に、自分はどうすべきか。

 その答えが、「成仏(あが)る」だった。

「私、巫女様も鬼様も好きです。ときちゃんも灯吉くんも、ここでみんなで遊べたこと、とっても楽しかったです。でも……でも、」

 小さい身体が、より小さくなって見えた。
 紀久は正座した膝の上で、きゅ、と握り拳で、必死に何かを堪えている。

「でも……だから、もう、逝きます」

 深々と頭を下げる。
 華倉が慌てて、そんなことしないで、と紀久に言う。

 でも、伏せた顔を上げさせようとはしなかった。
 代わりにその頭をしっかりと撫でてやる。

 本当にいいの、と華倉の問い掛けに、その頭が何度か頷いた。

 華倉は魅耶を振り向く。
 魅耶も何も発せず、黙って目を伏せた。

「先に行って支度をするね。落ち着いたら拝殿までおいで」
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