不退転の覚悟


 何の前触れもなく、最鬼の手には金棒が握られていた。
 それを腕ごと大きく振り回し、こちらに向けて投げ飛ばす。

 出来ることなら跳ね返したい裕だが、電柱やブロック塀なども巻き込みながらの飛来は、予想よりも脅威だった。
 回避するしか手段が出て来ない。

 何とか動きを読まれない方向へ身を飛ばす裕。
 金棒は大きな音を立てて、店舗のショーケースを破壊した。

 本当にこいつは考えずに暴れる。
 封じる以前の――四〇〇年前と全く変わらないその行動に、裕は軽く舌打ちをした。

 最鬼自身が仕掛けてくると踏んで、足元を確保し体勢を整えたその時、飛んできたのは先程の金棒だった。
 全く予想していなかった方向からの攻撃は、さすがに避け切れなかった。

 咄嗟に顔面を腕で隠すように構える。
 恐ろしいほどの衝撃音が響いた。

 金棒の勢いを削ぐために、思い切り腕を払い落とす。
 鈍い音を立てて、金棒がアスファルトの道路に突き刺さった。

「っ!!」

 気配を頭上に感じた。
 裕が顔を上げたとき、既に最鬼の姿が宙に跳んでいた。
 その手には、棍棒だ。

 斜め後ろに構え、落ちてくる力を利用して、棍棒を振り下ろす。
 どうにか隙を見て反撃をしたいのはやまやまだったが、裕はまたも背後に跳ぶ。

 棍棒は硬いはずのアスファルトを簡単に粉砕し、砂利などの破片が縦横に舞い上がる。
 最鬼は自分が叩き割ったその場へ片足を着き、勢いそのまま再度跳び上がった。

 速すぎたその動きに、今度こそ裕は完全に捕まる。

「っっ……!!?」

 脇腹へ、まさに抉られる一打だった。
 棍棒が食い込む衝撃と、最鬼が下へ押し付けてくる圧力とで、裕の身体は何の受け身も取れずに叩き付けられる。

「っ、ぁが……っ!」

 肺が破裂したかと思えるほどの圧迫。
 口の中か、または内臓かが切れたらしい、咳込むと一緒に血を吐いた。

 何とか起き上がろうとしたものの、その場にうずくまる体勢の裕の足元に、近付く気配。

「おう、そんなもんか? 衰えたな」

 声の方へ視線を向ける。
1/4ページ
スキ