コスプレさせたい


「ねぇ魅耶、本当にダメ?」
「嫌です、絶対に嫌です」

 じっと魅耶の瞳を捉え、険しい表情で訴える華倉。
 その瞳は戸惑いもあるが、同時に一歩も退かない強情さも窺えた。

 その所為か、魅耶も今回ばかりは妥協しようとしない。
 これだけはどうしても、折れてはいけないと心に決めていたのだ。

 暫し互いに沈黙を続ける。
 間に1組の衣服を挟んでの睨み合いだ。

 先にその沈黙を破ったのは、華倉の溜め息であった。

「何故そこまで拒むの? 俺そんな酷いこと言ってないはずだけど?」

 華倉の声色は本当に戸惑っている様子だった。
 それが魅耶にも分かるからこそ、逆に魅耶の怒りを増長させてしまう。

「確かに、華倉さんの頼み事ですから、本来ならば喜んでやりますよ。けれど、今回ばかりは内容が悪いです」

 だから嫌なんです。

 と、魅耶はきっぱりと告げるのだが、流石に華倉の顔を見ているのもつらいのか、瞳を伏せた。
 何で、とそれでも食い下がる華倉。
 不幸なことに、華倉にはその魅耶の言い分が理解出来なかったからだ。

 ねぇ、と華倉が畳に手を付いて、ずいと前のめりになって魅耶に詰め寄る。
 ちょっとだけ身を後退させてしまった魅耶に華倉は気迫そのままに続ける。

「そんなに嫌なの? 忠雪の衣装着て欲しいだけなのに??」
「……はい、それだから、嫌なんです」

 魅耶の主張が全く変わらないことを華倉はようやく受け止める。
 何でやー、と呟きながら華倉は体勢を元の位置まで戻す。

 その流れで両手で畳んで置かれていた1組の衣服を広げた。

「これ絶対魅耶に似合うと思って! 俺どうしてもこれを着た魅耶が見たいの!!」

 そう、衣服を見せながら華倉は再びプレゼンを始めた。

 2作品前のフルアルバム表題曲で、忠雪が着ていた衣装である。
 華倉はその曲のジャケット写真を見たときから、今回の頼みを考えていたらしい。

 しかし、魅耶は頑なにその頼み――衣装の着用を拒む。
 これは正直なところ、華倉にとっても想定外の反応だった。
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