結成前夜
「え、そちらのバンドにですか?」
「うんそう。是非入って欲しい」
昔ながらのラーメン店。
客はまばら。
そんな店内に、扇をはじめ、馨や司佐、有佐たちはいた。
司佐が大学の中庭で見掛けたギタリスト――忠雪を口説くために。
そんな勧誘を受けた忠雪は、きょとんとしている。
「うーん……どうでしょうか。今別のバンドに所属してまして」
「だからさ! そこをさ! こう腹括って!」
今はバンドを移る気はないのは、読み取れた。
馨は忠雪に食い下がるように、ぐいぐい押している。
「馨、飛ばし過ぎ」
そんな熱くなっている馨に、司佐が一旦声を掛けた。
そうそう、とメニューを見ながら有佐も同意した。
「1回目なんだからもっと慎重に行こうよ」
「そんなうかうかしてられっか!」
有佐のアドバイスに、馨はカッと目を開いて反論する。
馨としては一刻も早く忠雪にメンバーになってもらって、バンドを正式に結成したいのである。
そんな熱く必死な馨を横に、呑気なのは扇と有佐。
「親父ー、俺味噌バタチャーシュー」
「じゃあ俺も!」
「あいよ!」
勝手に注文をし出した。
威勢のいい店主の掛け声に、馨が気付く。
「何呑気にラーメン頼んでんだ!」
「だってここラーメン屋じゃん」
「晩飯まだだし」
馨が取り敢えず扇と有佐を諌める。
しかし何の悪びれた様子もない扇は、全うな意見を述べる。
ラーメン屋でラーメン頼まんでどうする、と告げる扇。
有佐もここで晩ご飯を済ませる魂胆らしい。
「今日はこの忠雪を口説きに来たんだろがぁっっ!!!」