生誕祭
「生誕祭」というのは、亡くなった偉人に対して使う言葉なので、まだ普通に生きている僕たちには相応しくない表現なんだよな。
と、地下鉄を出たところで思う。
というのも、出入り口の壁に自分が写ったポスターが貼られていたせいだ。
ポスターの前には、きゃあきゃあと騒いでいるファンらしき少女が数名。
多分SNSにでも載せるのだろう、何枚も写真を撮っている。
僕はそんな少女たちに見付からないように、なるべく気配を消して、そのポスターの前から離れたところを通り抜ける。
10月8日が僕と
さっきのポスターはその宣伝だ。
僕と、有佐の写真と、生誕記念公演とか何とか題を打ち、日程が書かれている。
正直何回かこういうライブはやらせてもらっているけど、未だに慣れない。
何というか、自分がこうまでピックアップされる意味がよく分からなかった。
バンドとして有名になるのは構わないし、自分がそのバンドの一員であることにも何の疑問も抱かない。
けれど、だからこそ、あくまで僕は「
そりゃあ、こんなことでもなければ、72億人も人間がいるこの世界で、一部の人間相手とはいえ、自分が主人公になれる瞬間なんか来ないだろう。
そういう立場になりたくて努力を重ねている人だっているわけだし。
そういう人はそのまま頑張ってくれてればいいだけだ。
僕が口を挟む権利はない。
とか、そういう屁理屈を捏ねたいわけではなくて。
「ねぇねぇ
今日もライブに向けての打ち合わせ。
僕がスタジオに戻るや否や、嬉しそうな笑顔でスマホを見せてくる有佐。
僕と同じく生誕祭ライブで祝われるメンバー、僕の双子の弟である。
はぁ、と適当な返事をして、掛けていた伊達眼鏡を外す。
一応の変装アイテムなんだけど、やっぱり眼鏡とマスクは相性悪いよな。
なんて考えていたせいで、有佐はまだひとりで喋ってたけど、殆ど聞いていなかった。
というか、何自分のポスターわざわざ撮ってんだよ。
「それ確か別々に撮ったんですよね。時間合わなくて」
ギターの音が止むと入れ替わるように、
待ち時間、ギターを弾いて遊んでいた様子。
どうやら有佐の手元を覗き込んでの発言だった。
うん、と頷いて有佐は、何故か残念そうに愚痴を溢した。
「折角兄弟でのライブなんだからさ、別撮りした写真組み合わせるなんてしないで、ツーショットにして欲しいよねぇー」