バトルシーン練習習作1


 雨上がりの帰路は、荷物が1つ増える。

 隼人は邪魔になって捨てようと考えていたビニール傘を肩に担いだまま歩いていた。
 買ってからまだ数えるほどしか使っていなかったため、捨てることに躊躇していた。

 家に着くまでには手放す、そう自分に暗示をかけるように数メートル進んでは繰り返していた。
 しかし。

 俯き気味に伏せていた頬に、何かが纏わりつく。
 蜘蛛の糸のような、ふわりと軽い感触が額から逆の耳元へと乗っかってきた。
 何だと思い、同時に気付く。

 ――入った?

 そこは、一見見慣れた風景。
 自宅近くの住宅街。
 に、よく似せた、敵陣だ。

「――!!!」

 音もなく飛び掛かって来る、一筋の鈍い光線。
 隼人はその光の筋より先に、本体の影を見切った。

 右脚でアスファルトを蹴り、背後へと飛んだ。
 一瞬前まで隼人が立っていた地面に、その切っ先が突き刺さる。
 足場を確認してから、隼人は飛んで来たその影の正体を睨む。

 刃先を引き抜き、ゆらりと揺れながら、それはこちらを向いていた。

 いつの間に結界内に立ち入ってしまったのか、隼人はまず自分に問い掛けた。
 そうでもしないと反省というものをしないからだ。

 勿論その1人反省会は、これを片付けた後で行う。
 片付けてしまえば、それきりだからだ。

 言葉ではない、何か空気を切るような音を口から出し、それはこちらに向かって突っ込んで来る。
 隼人は鞄だけその辺に捨てると、結局手放さなかった傘を構えた。

 持ち手とは逆の、先端をそれに向けて突き出す。
 それは避ける真似もせず、傘の先端を飲み込むかのように大口を開けていた。

「まじかよ……っ」

 避けると読んで次の手を決めていたが、それは本当に真っ直ぐ進んできた。

 傘の先端が、それの喉を捉える。
 鈍い感触、のちに骨にでも当たったのだろうか、それ以上押しても動かない。
 それの口からは、半透明の唾液らしきものと、赤いとは言えない気味の悪い色をした体液とが溢れて来た。

 きめぇ、と舌打ちをし、隼人は傘を引き抜こうと動く。
 しかし、それより早く、それの右手が傘を掴んだ。

「動かねぇっ、!」

 思わず声が洩れた。
 傘の骨を握り潰す勢いで右手の指を締め付けるそれの身体ごと、隼人は傘を大きく振り抜いた。
 腰から反動をつけて、壁に叩き付けるために。

 ギィシャアアアア! とかいう、耳障りな悲鳴。
 さすがに受け身も取れずに壁にぶつかり、それは一瞬だけ四肢から力が抜けた。

 その隙を見て、隼人はそれの胸を踏み付けて傘を引き抜く。
 体液と、何か肉片のようなものがべったりと付着していた。

「何なんだよお前」

 勿論本気で訊ねたわけではなかった。
 ただ、答えがあればラッキーくらいの気持ち。

 案の定、返事はなかった。

 機械音のような、塞がれた喉からどうにか出したような威嚇の声。
 それは起き上がり、首を回す。
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