それはもうナチュラルに


「は~~可愛い~~お前はほんとに可愛い~~」

 知らん内に来ていたらしい結希ゆうきが何かしてた。
 俺が今まで見たことないぬいぐるみを抱えて、ソファーでひとりふざけている。

 ……って何だその全力のデレモードは。

 暫し奇特なものを見る眼差しで結希を観察してしまった。
 いや、ほんと全部が想像の範囲外なんだが。

「可愛い、ほんと可愛い。しゅき。わたしはお前が好きだよ……」

 はぁー、と深く息を吐き、ぬいぐるみに顔を全部埋めながら、結希はしみじみ呟く。

 ……どうした?

 えっ、これ声掛けていいやつ? それとも邪魔しちゃ駄目なやつ? 待ってくれ俺にはその判断が出来ない。

 取り敢えず観察を続けた。
 いや、動けなかったと言った方が適切だったかも知れない。

 あ~~、と意味不明な声を洩らし、そのままソファーに横になる結希。
 ぬいぐるみから顔は上げないまま。

 かわいい、とうなされているかのように繰り返す。

 ……えっ、もしかして魘されてる??
 ひょっとして熱でもあるんじゃねぇか、とその時になってようやくひとつの可能性を思い付く。

 いや、別にアポなしでウチに来ることは構わない、以前からお互いによくやってる。
 しかしこんな、ぬいぐるみ相手に同じ発言をひたすら繰り返す結希は見たことがない。

 そんなにそれに思い入れがあるのか。
 しかしそんな話は聞いたことがない。

 ということは、結希は今、体調を崩してる……。
 その説が一番合理的且つ信憑性があった。

 うにゃ~~、とかいよいよ人語以外の発言を始めた。
 これはマズイ。

「……結希さん」

 何故か下から出て様子を窺う呼び方をしていた俺。
 多分この時まだ、心のどこかで引いてたと思われる(酷ェな)。
 それくらい俺にとっては衝撃的な姿だったわけだが。

 んあ、と俺の呼び掛けに、結希は顔を上げた。
 ぎゅっと胸に抱っこしたぬいぐるみにちょっとだけ顎を隠すように。

 ……いや、それが可愛い。
 じゃなくて。

「どこか具合でも悪いんか?」

 言葉は選んだつもりだったのだが、何かちょっとバカにしたような表現になってしまった。
 だって俺はまだ警戒しt(もういい)。
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