Confirmacion
最近、華倉さんの様子が可笑しい。
本人は至って普段通りに振る舞っているつもりなのだろうけれど、僕には違和感ありまくるのだ。
落ち着きがないというか、逆に気付くとぼんやりしていたり。
スマホとにらめっこして何やら真剣に考えてたり、カレンダーを何回も確認したり。
……何があるのだろう。
華倉さんと此処、篠宮総本山で一緒に暮らし始めて、そろそろ5年が過ぎた。
政春さんからの一連の引き継ぎも終えて、完全に2人だけの生活になったのだけれど。
僕はと言うと、大学の卒論のために集めた資料を参考に、出来上がった小説が特別賞を獲り、一昨年から作家業なんてことをしていた。
とは言ってもまだまだ底辺の新人である。
昨日もある程度まとまった原稿を「もっと怖く(※意訳)」と突き返されてしまった。
まぁ仕方のないことである。
僕はまだ、書籍が出せるほど多くの作品は書けていないし、お世話になっている出版社はなかなか規模が大きく、抱えている作家も幅広い。
僕のようなペーペーもごまんといる反面、所謂大御所やベテラン、そのジャンルのカリスマなんて作家もいる。
確かにそんな先生たちの作品を読むと、自分の書く物語は迫力に欠けるなぁとも思う。
いや、ホラー小説に必要なのは迫力じゃないかも知れないんだけど……何て言うか、執筆の勢いとでも言うのか。
文章のテンポが淡々としていて、突っ掛かる部分もなく、するすると引き込まれていくのが自分でも分かる。
ホラー小説に必要な、音も無く忍び寄って、突然襲い掛かる系の勢い。
自分の書く文章には、まだそれがないな、とよく分かる。
迷いがあるんだよな。
表現力不足か、思い入れ不足か。
それは分からない。
出来れば第三者に読んでもらえると助かるんだけどなぁ……なんてぼんやり考えたときもある。
でも残念ながら、華倉さんはホラー系が大の苦手なのだった。
なので未だに華倉さんは、僕の書く小説を読んだことがない。
それは残念でもあるし、でも一方で妙な安堵感もあったりする。
やっぱり気恥ずかしさがあるんだろう。
自分がよく知っている相手に、自分の妄想を知られるということだから。
ある意味、一番避けたい読者かも知れない……。
なんて、書き掛けの原稿を前に、溜め息を吐く。
そろそろ華倉さんも帰宅する頃だろうか。
時間を見て、一度データを保存し、パソコンを閉じた。
華倉さんは今日は、区役所へ出向いて、来年度の打ち合わせをしている。
山の維持管理についてや、整備したい箇所の有無、いつから一般開放を行うかなど、仕事内容は多岐に渡る。
意外と外との交流が多い職らしい。
華倉さんが丸1日、家で過ごす日というのは、週の半分もなかった。
華倉さんを追って、ここまで来てしまったはいいけれど。
まだ時々、不安な気持ちになる。
華倉さんは本当に、僕を歓迎して、後悔はしていないのかなと。
台所へ向かい、ヤカンを火に掛けたところで、玄関で物音がした。
「ただいまー」という華倉さんの声が聞こえてくる。
火の傍を離れるわけにはいかなかったので、僕はその場からお帰りなさいとやや大きめの返事で出迎えた。
華倉さんが台所に顔を見せた。
すぐお茶出来ますので、と言う僕に、にっこり笑って応えてくれた。
着替えるために華倉さんは、一旦部屋の奥へ引っ込む。
……こうしてやり取りをしていると、変わった感じはしない。
僕と接しているときは、まぁ、大体こんな感じだな。
でも確かにひとりで何かこそこそやってるのは分かる。
あからさまに「隠している」訳ではないんだけど、僕には知られたくない様子なんだよな。
気にし過ぎかな。
うーん、と首を傾げたまま、お茶を淹れる。
居間まで持って来たところへ、丁度良く華倉さんも戻って来た。
「原稿は進んだ?」
僕から湯呑みを受け取りながら、華倉さんが訊いて来た。
ぼちぼちです、と答えるものの、実際は全く変化なしだけど。
本人は至って普段通りに振る舞っているつもりなのだろうけれど、僕には違和感ありまくるのだ。
落ち着きがないというか、逆に気付くとぼんやりしていたり。
スマホとにらめっこして何やら真剣に考えてたり、カレンダーを何回も確認したり。
……何があるのだろう。
華倉さんと此処、篠宮総本山で一緒に暮らし始めて、そろそろ5年が過ぎた。
政春さんからの一連の引き継ぎも終えて、完全に2人だけの生活になったのだけれど。
僕はと言うと、大学の卒論のために集めた資料を参考に、出来上がった小説が特別賞を獲り、一昨年から作家業なんてことをしていた。
とは言ってもまだまだ底辺の新人である。
昨日もある程度まとまった原稿を「もっと怖く(※意訳)」と突き返されてしまった。
まぁ仕方のないことである。
僕はまだ、書籍が出せるほど多くの作品は書けていないし、お世話になっている出版社はなかなか規模が大きく、抱えている作家も幅広い。
僕のようなペーペーもごまんといる反面、所謂大御所やベテラン、そのジャンルのカリスマなんて作家もいる。
確かにそんな先生たちの作品を読むと、自分の書く物語は迫力に欠けるなぁとも思う。
いや、ホラー小説に必要なのは迫力じゃないかも知れないんだけど……何て言うか、執筆の勢いとでも言うのか。
文章のテンポが淡々としていて、突っ掛かる部分もなく、するすると引き込まれていくのが自分でも分かる。
ホラー小説に必要な、音も無く忍び寄って、突然襲い掛かる系の勢い。
自分の書く文章には、まだそれがないな、とよく分かる。
迷いがあるんだよな。
表現力不足か、思い入れ不足か。
それは分からない。
出来れば第三者に読んでもらえると助かるんだけどなぁ……なんてぼんやり考えたときもある。
でも残念ながら、華倉さんはホラー系が大の苦手なのだった。
なので未だに華倉さんは、僕の書く小説を読んだことがない。
それは残念でもあるし、でも一方で妙な安堵感もあったりする。
やっぱり気恥ずかしさがあるんだろう。
自分がよく知っている相手に、自分の妄想を知られるということだから。
ある意味、一番避けたい読者かも知れない……。
なんて、書き掛けの原稿を前に、溜め息を吐く。
そろそろ華倉さんも帰宅する頃だろうか。
時間を見て、一度データを保存し、パソコンを閉じた。
華倉さんは今日は、区役所へ出向いて、来年度の打ち合わせをしている。
山の維持管理についてや、整備したい箇所の有無、いつから一般開放を行うかなど、仕事内容は多岐に渡る。
意外と外との交流が多い職らしい。
華倉さんが丸1日、家で過ごす日というのは、週の半分もなかった。
華倉さんを追って、ここまで来てしまったはいいけれど。
まだ時々、不安な気持ちになる。
華倉さんは本当に、僕を歓迎して、後悔はしていないのかなと。
台所へ向かい、ヤカンを火に掛けたところで、玄関で物音がした。
「ただいまー」という華倉さんの声が聞こえてくる。
火の傍を離れるわけにはいかなかったので、僕はその場からお帰りなさいとやや大きめの返事で出迎えた。
華倉さんが台所に顔を見せた。
すぐお茶出来ますので、と言う僕に、にっこり笑って応えてくれた。
着替えるために華倉さんは、一旦部屋の奥へ引っ込む。
……こうしてやり取りをしていると、変わった感じはしない。
僕と接しているときは、まぁ、大体こんな感じだな。
でも確かにひとりで何かこそこそやってるのは分かる。
あからさまに「隠している」訳ではないんだけど、僕には知られたくない様子なんだよな。
気にし過ぎかな。
うーん、と首を傾げたまま、お茶を淹れる。
居間まで持って来たところへ、丁度良く華倉さんも戻って来た。
「原稿は進んだ?」
僕から湯呑みを受け取りながら、華倉さんが訊いて来た。
ぼちぼちです、と答えるものの、実際は全く変化なしだけど。