成呪


「鳳凰さんの傷はこれで大丈夫。包帯は1日2回替えてね」

 ぽん、と肩を叩いて深央みおは笑って言った。

 深央は篠宮家のかかりつけ医である岳元の次女で、一度は実家を出たが数年前から少しずつ実家での診察も始めている。
 今日は岳元に代わりその深央が来てくれた。

 少々特殊な事情を持つ篠宮家ゆえ、岳元家の人間は部外者とはいえある程度の事情は把握している。
 深央もまた、幼少期より菱人や華倉たちと親交があったため、こうして鳳凰のこともすんなり受け入れてくれた。

 恩に着る、と鳳凰は小さくだが頭を下げ、そそくさと着物を羽織った。

 やはり初対面の女性に長く裸体を見られるのは気が引けるのだろうか。
 傍にいて、鳳凰の様子を見ていた華倉はそんな風に考えていた。

 包帯やガーゼなどを一旦片付けたあと、深央は華倉の方を見て再度訊いた。

「で? 華倉くんはほんとに検査とか要らないの? 背中、思いっきり木にぶつけたって」
「あー、はい、今んとこ痛みもないし……」
「今痛くなくても、診とくだけでもしといた方がいいよ?」

 後になって何か出てくる可能性も充分ある、と深央は華倉の顔を覗き込んで言う。

 深央は華倉よりも少しだけ年下なのだが、医者という職業と、本人の性格ゆえか物怖じせずはっきりとした態度で接する。
 これは医者としての見立てもあるだろうが、きっと個人として昔馴染みの華倉の心配をしている部分もあるのだろう。

 そう言えばいつか岳元との世間話で聞いた。
 深央はこっちに戻ってくるつもりがあるらしいと。

 それを思うと華倉は深央からの忠告を無下に出来ず、ふっと弱々しく笑うと、じゃあ念の為と受け入れた。

 深央はその華倉の返答ににっこりと笑い、準備してくるねと部屋を出た。
 廊下でどうやら魅耶と出くわしたらしい、数回のやりとりがされた後、ひとつの足音が玄関へ向かった。

 もう1つの足音は鳳凰と華倉がいる部屋へと近付き、襖が開かれる。

「大事はないか?」

 姿を見せたのは魅耶だけではなく、その後ろにはいつの間にか真鬼もいた。
 声をかけたのは真鬼の方だ。

 2人が揃って顔を見せたことに、華倉は素で驚いて「うおっ」と思わず声を漏らす。
 それというのも、真鬼の様子が芳しくなかったせいもあっただろう。

 顔色が悪いと言えばいいのだろうか、表情が冴えないとも見えた。
 まさか広政に何かあったのではと身構える華倉だが、まずは魅耶と一緒に真鬼が華倉と鳳凰の傍に座り込む様子をじっと見ていた。

 真鬼はそのまま魅耶の肩に顔を伏せるようにくっついた。
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