割り無き利
『お前以前、鳳凰に稽古をつけてもらっただろう。もう一度頼むといい』
真鬼から言われた時既に、華倉とて思い出していないわけではなかった。
だからそれは幸いと呼んで差し支えない申し出だったのだ。
「ついでだ。手合わせを頼めるか?」
その日総本山に顔を見せたのは、鳳凰と麒麟の2人だった。
中心となって話を進めているのは麒麟である。
きょとんとする華倉の反応を待たずに麒麟は言葉を繋げる。
「前回のように擬似空間内でお前に稽古をつける。今回は、私相手の実戦形式でだ」
そこまで言われてようやく華倉は話を理解した。
まさか鳳凰側からその話を持って来てくれるとは思いも寄らず、いいんですか、とやや喜びを込めた返答をしてしまった。
しかしそれは言い換えれば余裕のなさの裏返しであることを、華倉は直後に知ることとなる。
疑似空間内は明確に形容し難い空間だった。
色や温度などもあるようで感じ取れない、どことなく虚しさを抱かせる空間に、華倉と麒麟は向かい合って構えを取る。
疑似空間内では自分の「思い」が武器となって現れる。
実体は伴わないが、空間内で扱うものはこの方法しかない。
思いとは念やその者の持つ気(能力)と言い換えることも出来る。
麒麟のそれは所謂「霊力」で、麒麟はその霊力を様々な種類の武具に変換した上で出力することが出来る。
「お前も以前見たから把握は出来ているはずだ。私のこれと、最鬼をはじめとする鬼神たちの闘い方は共通している」
そう言いながら麒麟は右手に雷(いかづち)のような電流を出現させながら続ける。
その電流は次第に細長い紐状に形を整え、気付いたときには鞭の姿になっていた。
それをすぐに消すと今度は同じように電流を放ち、それは剣の姿に。
ぽかんとした眼差しでその様子を見ていた華倉に、麒麟は再度雷を消して続ける。
「恐らく最鬼も己の妖力を具現化して闘う。どのタイミングで何を出してくるかを予測出来れば苦労はしないが、恐らくお前には無理だろう」
麒麟の躊躇のない断言に華倉は少々気に食わなさを覚えたものの、ぐ、と喉の奥で音を出すに留まった。
否定出来なかったからだ。
だからこうして麒麟が出向いたのだ。