誕生日おめでとう

「なぁ坂下」

 ひとりで考えていても埒が明かないので、俺は坂下に話を振る。
 なに、と答えてくれた坂下に、率直に訊いてみた。

「魅耶の好きなもの、って何だと思う?」

 すると、坂下がやや怪訝な顔付きになって、大真面目に答えた。

「……華倉じゃね?」

 そんな返答に、不覚にも、納得する俺。

「ああ……」

 そうか、そりゃそうだ。
 なんてちょっと頷いてしまった。
 んだけど。

「って! 違う! そういうことじゃなくて!!」
「だって華倉に分からんもん俺らが知るかよ」

 慌ててそう異議を申し立てた俺に、坂下がちょっと怒ったように返す。
 なぁ、と坂下に同意を求められた榎本も、そうね、と頷いている。
 いや、そりゃそうなんだけど、そういうことじゃなくて。

「何、どうしたのいきなり」

 坂下がそう訊いてくれたので、俺は溜め息を零して呟く。

「いや、ちょっとごたごたしてたから忘れてたんだけど……魅耶誕生日だったんだよ」
「わぉ」

 そう、ホワイトデーの一件ですっかり忘れてしまっていたのだが。
 ホワイトデーより少し前は、魅耶の誕生日だったのである。
 加藤くんの一件でちょっとごたごたしてしまったため、うっかりスルーしてしまった。
 はぁ、と溜め息を吐き、俺は続ける。

「だからさ、今からでもプレゼントしたいなぁと」
「なるほど」

 俺の真剣さが通じたのか、珍しく榎本が話を聞いている。
 そういうことなら、と続けて何かを提案してくれるらしい。
 なに、と期待した俺に、榎本は言う。

「それならお詫びも兼ねてお前自身をくれりゃいい」

 まぁ外さないだろうけど!

「そういうの無しで! まだ健全な展開でお願いしますッッ!」

 その手は最終兵器だよ。
 なんて反論したんだけど、榎本は真顔で答える。

「バカだな篠宮。この手は付き合ってからじゃ使えないだろ」
「はぁ?」

 全く、と何故か上から来る榎本。
 どういうこと、と坂下まで話に混じってくる。
 榎本は呆れたように淡々と述べた。

「付き合ってからじゃ当たり前になるだろ。今だから使える手なんだよ。まだそんなに深い仲じゃないから」
「……なるほど」
「坂下!」

 榎本の説明に、何故か納得する坂下。
 いや、言っていることは分かるけど、そういうの俺望んでない!

「てゆーか、華倉んちまだそういう仲じゃないんだ?」

 もー、とちょっと相談する相手間違えたことに落ち込んでいると、ふと坂下にそう問われた。
 え、と答えて顔を上げる。
 そういう仲って、と訊こうとして、理解する。
 ……ああ。

「まぁ、うん。そうね」

 自分で言うのも恥ずかしいだけだけど、事実だし。
 一応、まだです。
 へぇ、と坂下が驚いたように見ている。
 てゆーか恥ずかしいから。
 むう、とちょっと不貞腐れて視線を外す俺に、榎本が言う。

「なら本人に聞けよ。回りくどいことしないで」

 今度はそんな、真っ当なアドバイスをくれた。


 
「魅耶」

 放課後。
 生徒会室で仕事中。
 はい、と答える魅耶に、俺は勇気を出して訊ねる。

「魅耶の好きなもの、って何? 俺以外で」
「……」

 自分で言うのはくっそ恥ずかしい。
 でも、魅耶はじっと俺を見て、考えているようだ。

「……華倉さん以外で、僕の好きなもの……?」

 10分後。
 まだ考えている。
 まじかよ。

「えー? 何かありましたかねぇ」
「いや、もういいよ魅耶。訊いてごめん」

 本人がこれじゃ、全く話が進まない。
 俺が謝ると、魅耶がきょとんと訊いてくる。

「でもどうしたんですか、いきなり?」
「ああ、あの……魅耶の誕生日、スルーしちゃったから」

 俺は申し訳なさそうに、きちんと謝って伝えた。
 え、と驚く魅耶。
 やっぱり寂しいよな、と思って魅耶を見詰めていると。
 ん?

「……僕、誕生日でしたっけ?」
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