消える初恋
「さて魅耶之助」
「何ですかその呼び方新しい。てゆーか可笑しいでしょ」
ふう、と溜め息を吐いて、俺は魅耶を見ずにそう呼んだ。
案の定魅耶から普通にツッコミが入る。
しかし俺はそんなツッコミに対応している余裕はなかった。
だから冒頭ヘンテコな呼び方をしてしまったというわけである。
俺は椅子の背もたれから起き上がると、カレンダーを指差す。
「ホワイトデーが近い」
「はぁ?」
俺の一言に、魅耶が曖昧な反応。
それが何か、と答える魅耶に、俺はクリアファイルから一枚のメモを取り出す。
「……今年、チョコなんかをくれた相手は4人だ」
「リアルですねぇ」
俺のそんな話に、魅耶が複雑そうな顔をしている。
尤も、名前が分かっているだけが4人であって、名無し、を含めるともうちょっといる。
勿論筆頭に魅耶、次いで長田と坂下にもらって……。
この3人には何かしらお返しはすると決めているからいいんだけど。
問題はあと1人。
「この、1年生なんだけど」
俺はメモを見ながら溜め息を吐く。
魅耶が俺の手元を覗き込んで、名前を読み上げた。
「加藤祥吾」
1-4、加藤祥吾という記名で、チョコが俺の机に置かれていた。
「……まず確認したいのが、性別なんだけど」
「まぁ名前からして男でしょうね」
俺は回りくどい言い方をしてみたんだけど、魅耶にはあっさりと答えられた。
ですよねー、と涙目になる俺。
何で男なんだ、って話である。
はぁ、と俯いて溜め息。
でも。
「名無しや、お返し要りません、って子が多かった中、この子は何もメッセージなくてさ」
だから気になるんだ。
「……華倉さん、そんな曖昧なプレゼント食べたんですか?」
こういう場合はお返しすべきかな、という俺の言葉にかぶさって、魅耶が発言した。
え、とちょっと吃驚して、俺は頷いた。
わぁ、と魅耶、ちょっと引いてる。
「いやいや怖くないですか? 何ともありませんでした?」
「え、ああ、うん。別に?」
心配してくれる魅耶に、俺はきょとんと返す。
まじか、とそれでも尚心配そうな魅耶。
とにかく、と俺は話を進める。
「まず1回、この子に会ってみたいんだけど」
行っていいかなぁ、と迷う俺。
クラスと名前は分かってるし、でも、突然行くのも何と無く気が引けた。
だって、この子のくれたプレゼントからすると、俺とは直接接触したくないような気もして。
うーん、と考える俺。
でもバレンタインにくれたプレゼントにお返しは義理と人情みたいなもんだしなぁ。
「いいんじゃないですか、ほっとけば」
そろそろ嫉妬し始めたらしい、魅耶が棘のある言い方をしてくる。
でも、こればっかりは何か引っ掛かる。
「ねぇ魅耶、付いて来てよ」
今日の放課後行くから、と俺が頼むと、魅耶は膨れっ面で答える。
「当たり前です。華倉さん1人で行かせたら何されるか」
「何もないよ」
何で俺襲われる前提なの。
はぁ、と溜め息を吐きつつ、放課後を待った。
1年生教室には滅多に来ない。
俺は。
しかし魅耶は瀧崎に話をしに結構来ているらしい。
道理で慣れているはずだ。
1年生の通り過ぎる廊下を、ふたりで進んでいく。
会長だ、生徒会の人だ、と何か囃し立てられてる。
「華倉さんは人気ありますねぇ」
「……そうなの?」
そんなに立派なことしてないんだけど、と何となくビビって魅耶の袖を掴んだ。
可愛いですよそれ、と魅耶にツッコまれても離せなかった俺。
何やってんだか。
そうして1-4の教室に着いた。
出入り口付近に居る生徒を掴まえて、訊ねる。
「済みません、加藤祥吾くん、ってどの子?」
俺がそう訊くと、その生徒は指を差して教えてくれた。
窓際の席で突っ伏して寝ている子、だと。
確かにひとり、放課後だと言うのに、何故か机で寝ている。
帰らないのか、と思いながら、彼に近付いた。
「えーと、加藤くーん」
ゆさゆさと肩を揺らす。
んー、と曖昧な反応が返ってきた。
ので、もうひと押し。
「加藤くん、起きて」
更に揺らすと、もぞっと起き上がった。
ぼんやりした目で俺を見ている。
「……えっと、2年の篠宮です」
そう、簡単に挨拶をした、ら。
急に加藤くんは目が覚めたように驚いて、そして顔を赤くした。
「し、しししし篠宮さあぁぁあああああん!!!?」
文字通り飛び跳ねて、何故か叫ばれた。
吃驚する俺と魅耶。
ぎゃあああ、と喧しい加藤くんを、俺は宥めに入る。
「お、落ち着いて、確かに篠宮ですが」
「あっ、す、済みませっ!! 俺、俺なんかが付き纏って!!」
「は? え、落ち着いて……」
「申し訳ないですうううう!! 死んでお詫びを!!!」
ぎゃあああ、と何故か錯乱状態の彼。
がらり、と窓を開けて本当に飛び降りそうになったので慌てて引き留める。
落ち着けー、と俺の声に、加藤くんははたと我に返ったようだ。
「ここ2階なので飛び降りてもどうってことないですけど」
「魅耶も煽らない!」
一連の加藤くんの狂乱っぷりを見ていた魅耶が、何故か冷静にツッコんだ。
いや、面白くないのは分かるけど。
「何ですかその呼び方新しい。てゆーか可笑しいでしょ」
ふう、と溜め息を吐いて、俺は魅耶を見ずにそう呼んだ。
案の定魅耶から普通にツッコミが入る。
しかし俺はそんなツッコミに対応している余裕はなかった。
だから冒頭ヘンテコな呼び方をしてしまったというわけである。
俺は椅子の背もたれから起き上がると、カレンダーを指差す。
「ホワイトデーが近い」
「はぁ?」
俺の一言に、魅耶が曖昧な反応。
それが何か、と答える魅耶に、俺はクリアファイルから一枚のメモを取り出す。
「……今年、チョコなんかをくれた相手は4人だ」
「リアルですねぇ」
俺のそんな話に、魅耶が複雑そうな顔をしている。
尤も、名前が分かっているだけが4人であって、名無し、を含めるともうちょっといる。
勿論筆頭に魅耶、次いで長田と坂下にもらって……。
この3人には何かしらお返しはすると決めているからいいんだけど。
問題はあと1人。
「この、1年生なんだけど」
俺はメモを見ながら溜め息を吐く。
魅耶が俺の手元を覗き込んで、名前を読み上げた。
「加藤祥吾」
1-4、加藤祥吾という記名で、チョコが俺の机に置かれていた。
「……まず確認したいのが、性別なんだけど」
「まぁ名前からして男でしょうね」
俺は回りくどい言い方をしてみたんだけど、魅耶にはあっさりと答えられた。
ですよねー、と涙目になる俺。
何で男なんだ、って話である。
はぁ、と俯いて溜め息。
でも。
「名無しや、お返し要りません、って子が多かった中、この子は何もメッセージなくてさ」
だから気になるんだ。
「……華倉さん、そんな曖昧なプレゼント食べたんですか?」
こういう場合はお返しすべきかな、という俺の言葉にかぶさって、魅耶が発言した。
え、とちょっと吃驚して、俺は頷いた。
わぁ、と魅耶、ちょっと引いてる。
「いやいや怖くないですか? 何ともありませんでした?」
「え、ああ、うん。別に?」
心配してくれる魅耶に、俺はきょとんと返す。
まじか、とそれでも尚心配そうな魅耶。
とにかく、と俺は話を進める。
「まず1回、この子に会ってみたいんだけど」
行っていいかなぁ、と迷う俺。
クラスと名前は分かってるし、でも、突然行くのも何と無く気が引けた。
だって、この子のくれたプレゼントからすると、俺とは直接接触したくないような気もして。
うーん、と考える俺。
でもバレンタインにくれたプレゼントにお返しは義理と人情みたいなもんだしなぁ。
「いいんじゃないですか、ほっとけば」
そろそろ嫉妬し始めたらしい、魅耶が棘のある言い方をしてくる。
でも、こればっかりは何か引っ掛かる。
「ねぇ魅耶、付いて来てよ」
今日の放課後行くから、と俺が頼むと、魅耶は膨れっ面で答える。
「当たり前です。華倉さん1人で行かせたら何されるか」
「何もないよ」
何で俺襲われる前提なの。
はぁ、と溜め息を吐きつつ、放課後を待った。
1年生教室には滅多に来ない。
俺は。
しかし魅耶は瀧崎に話をしに結構来ているらしい。
道理で慣れているはずだ。
1年生の通り過ぎる廊下を、ふたりで進んでいく。
会長だ、生徒会の人だ、と何か囃し立てられてる。
「華倉さんは人気ありますねぇ」
「……そうなの?」
そんなに立派なことしてないんだけど、と何となくビビって魅耶の袖を掴んだ。
可愛いですよそれ、と魅耶にツッコまれても離せなかった俺。
何やってんだか。
そうして1-4の教室に着いた。
出入り口付近に居る生徒を掴まえて、訊ねる。
「済みません、加藤祥吾くん、ってどの子?」
俺がそう訊くと、その生徒は指を差して教えてくれた。
窓際の席で突っ伏して寝ている子、だと。
確かにひとり、放課後だと言うのに、何故か机で寝ている。
帰らないのか、と思いながら、彼に近付いた。
「えーと、加藤くーん」
ゆさゆさと肩を揺らす。
んー、と曖昧な反応が返ってきた。
ので、もうひと押し。
「加藤くん、起きて」
更に揺らすと、もぞっと起き上がった。
ぼんやりした目で俺を見ている。
「……えっと、2年の篠宮です」
そう、簡単に挨拶をした、ら。
急に加藤くんは目が覚めたように驚いて、そして顔を赤くした。
「し、しししし篠宮さあぁぁあああああん!!!?」
文字通り飛び跳ねて、何故か叫ばれた。
吃驚する俺と魅耶。
ぎゃあああ、と喧しい加藤くんを、俺は宥めに入る。
「お、落ち着いて、確かに篠宮ですが」
「あっ、す、済みませっ!! 俺、俺なんかが付き纏って!!」
「は? え、落ち着いて……」
「申し訳ないですうううう!! 死んでお詫びを!!!」
ぎゃあああ、と何故か錯乱状態の彼。
がらり、と窓を開けて本当に飛び降りそうになったので慌てて引き留める。
落ち着けー、と俺の声に、加藤くんははたと我に返ったようだ。
「ここ2階なので飛び降りてもどうってことないですけど」
「魅耶も煽らない!」
一連の加藤くんの狂乱っぷりを見ていた魅耶が、何故か冷静にツッコんだ。
いや、面白くないのは分かるけど。
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