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おじさん、歌仙と仲良くなる
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「では、最後に厨を案内いたします」
こんのすけの案内で汚じさんと歌仙は本丸の設備の説明を受けていた。審神者の執務室に始まり、談話室や食堂、茶室まで、純和風平屋建ての本丸は非常に広く、様々な設備を備えていた。
最後に訪れた厨も何十人分もの食事を作ることを想定しているのだろう、大人が7.8人ほどいても自由に動ける広さのものだった。ただ、設備は最新式のようで、炊飯器や電子レンジ、ポットなど、汚じさんにも馴染みの深い家電が並んでいる。
「これで全ての部屋の案内が終わりました。本日はこの本丸に慣れていただくためにも終日休暇となります。どうぞご自由にお過ごしくださいませ」
「こんのすけ君、案内どうもありがとう」
「いえいえ、仕事ですから。それでは」
汚じさんが礼を言うと、こんのすけは少し嬉しそうにぺこりとお辞儀をし、姿を消した。喋る狐には大分慣れていたものの、まさか消えるとは思ってもおらず、汚じさんは内心ギョッとした。横目で歌仙を伺うと、綺麗な碧色がまん丸になっているのが見え、親近感が湧いた。
「えっと…歌仙兼定様、お腹空いていませんか………」
その勢いのまま歌仙に話しかけてみる。すると、思いっきり眉をしかめられた。それは顕現のときの表情と似ていて、怒っているようであって、悲しげでもあった。
「主、まず、その敬語と様付はやめてくれ。君は僕の主なんだ、変な気遣いはよしてくれ。それから…いや、これはまた追い追い言うとしよう」
何を言われるかと汚じさんがビクビクしていると、存外優しい声色で歌仙はそう告げた。
「ああ、あと、腹が空いているかと聞いたね。実は、人の身を持ったばかりで、空腹というものがどういうものなのかよくわからないんだ」
汚じさんは審神者研修で習ったことを思い出した。刀剣男士たちは真っさらな状態で顕現される。いわば顕現と同時に人間一年目が始まるのだ。歴史修正主義者達との戦いのことや基本的な生活のことなどはこんのすけが説明をしてくれるが、実践的な人間生活に関しては審神者が教えなければならない。今後刀剣男士の人数が増えれば互いに教えあうこともできるだろうが、現在この本丸には歌仙と汚じさんの2人だけである。必然的に汚じさんが全てを教えることになるであろう。
「そうですか…じゃなかった、そうか、じゃあまずは食事からだね。私が作るから歌仙君は向こうの机で待っていてもらってもいいかな」
「いや、ここで見ていてもいいだろうか」
汚じさんが長年の独り暮らしで覚えたなけなしのレシピを必死に思い出していると、汚じさんのすぐ後ろに歌仙が立っていた。
「いいけど…料理に興味があるの?」
あまり時間がかからない方がいいだろう。頭の中で味噌汁と白米、それから焼き魚でも焼こう等と考えながら米を炊く準備にとりかかる。その後ろを歌仙がとことこと着いてくる。
「興味がある、というより、こうやって覚えたら君に作ってあげられるだろう」
さも当然のように言う歌仙に汚じさんはハッとした。これも審神者研修で嫌という程叩き込まれたことだが、刀剣男士達は自身を顕現した主に無意識のうちに好意を抱く。刀によってその程度は様々だが、一様に自分の主を慕うようである。それゆえ、自身に対して懸想をしていると勘違いをし身を滅ぼす審神者が後を絶たないと聞く。これ程までに見目の麗しい男性に無条件に慕われればそう思い違いをするのも無理はないと汚じさんは一人心の中で納得した。
しかし、何を隠そう、汚じさんはおじさんである。自身の見た目については理解しているし、刀剣男士達の性質だと考えれば心が傾くことはなかった。歌仙は主人と従者という関係性の下で汚じさんを慕ってくれている。可愛いらしいと思うことはあっても、それ以上の感情を抱くことはなかった。
「ありがとう、歌仙君。こんなおじさんのために…」
米を炊飯器にセットして炊飯ボタンを押す。最新式の炊飯器は10分で米が炊けるようになっている。便利な世の中だ。
米が一段落したところで、次は魚だ。冷蔵庫の中にあった塩鮭をグリルに並べタイマーをかける。他人に料理を食べさせるのは久しぶりだ。焦げないように、少しでも美味しくなるようにと祈りながらスタートボタンを押した。
ふと気がつくと、歌仙の気配が背後にない。不思議になって振り向くと、先程の炊飯器の前で不機嫌そうな顔をして立っている。
「あ、あれ、ごめん、歌仙君。私が気に触るようなことを言ってしまったかな…。おじさん、こんなだから、その、君のような若い人の気持ちがわかってあげられなくて…ごめんね」
見た目は青年でも、刀剣男士達の齢は汚じさんより遥かに上である。しかし、今の歌仙の表情は見た目の年相応かそれ以下のように見え、汚じさんは職場で若い部下の機嫌を損ねてしまった時のことを思い出した。
「それだ、それだよ、主。君の悪い癖だ。どうしてそう自分を卑下するんだい」
歌仙の碧色が汚じさんを真っ直ぐ見つめる。しかし汚じさんは歌仙に言われたことがイマイチ理解できない。「自分を卑下」していると言われても、汚じさんが冴えないおじさんであることは単なる事実である。それを卑下と言われても汚じさんにはどうしたらよいかわからなかった。
「で、でもね、歌仙君。私はどう考えてもおじさんだし、背が低くて太っていて、お世辞にも格好いいとは言えない容姿をしている。だから、私のこの性格は、この見た目に相応しいものなんだ。君はこんなのが主になってしまって不本意だろうけど……」
「そうじゃない」
歌仙は汚じさんの言葉を力強く否定すると、汚じさんの目の前まで歩み寄り突然その両手をとった。驚いた汚じさんの手から菜箸が音を立てて落ちた。
「そう、この手だ。僕に触れたこの手から、とても清らかな霊力を感じた。それから、君の眼を見て、心根の優しい人間であることがわかった。そして…そうだね、君となら風流事について語り合えると思った、いや、僕が君と語り合いたいと思ったんだ。
我々刀剣男士に見目なんて関係ない。主として仕えるに値する人間かどうかは内面の問題だ」
歌仙の視線は汚じさんから逸れることはない。こんなにも美しい顔に至近距離で見つめられ、汚じさんは戸惑うばかりであった。しかし、握られた手から伝わる歌仙の力が、その言葉の真摯さを表していた。
「主、もっと自分に自信を持ってほしい。僕は君こそが僕の主に相応しいと思った。君は僕の主人なんだ、もっと堂々としていてくれ」
「歌仙君、どうもありがとう。ただ、私は何十年もこうやって生きてきたんだ。今すぐにこの性格を変えることは難しいと思う。……だから、私が卑屈なことや自分を卑下するようなことを言いそうになったら、君が諌めてくれるかな」
「あぁ、勿論だとも」
にっこりと満足そうに笑った歌仙の顔は大輪の花が咲いたように美しく、汚じさんは思わず目を逸らした。
「主、どうして僕の顔を見てくれないんだい」
繋がれたままの手を歌仙がくいくいと引っ張る。自分よりも背が高く体格も良い男性にされているとわかっていてもなお、その仕草が可愛くて、汚じさんはおかしなことを考えないように必死に目を逸らし続けた。
「だ、だって…歌仙君の笑った顔があんまり綺麗だから、おじさん、こんなに綺麗なもの見慣れてなくって……」
しどろもどろになりながら汚じさんがそう伝えると、歌仙の動きが止まった。汚じさんが不思議に思って見上げるとそこには頰を朱色に染めた歌仙が眼をまん丸にして固まっていた。
「主…君って人は……。自分のことは貶めるくせに、どうして他人のことはそう直球で褒めるんだ」
真っ赤な顔をした歌仙が困ったように言った。だが、その口元には我慢しきれない笑みが浮かんでいる。
「ごめんね、歌仙君。これから君にはたくさん迷惑かけちゃうと思うんだけど、どうぞよろしくお願いします」
「任せてくれ、僕が君を全力で支えるよ」
ピーピーピー
「あ、ご飯もう炊けちゃったね。急いでお味噌汁作るからね」
「ああ、僕にもやらせてくれ」
仲良く厨に並び、ぽつぽつと会話をしながら食事を作る二人の姿をこんのすけは厨の入り口から見ていた。刀選びにも大層時間のかかった審神者である、いざ二人きりにしたが、なんとなく心配になり様子を見にきたものの、要らぬ心配だったようだ。
楽しげな二人を厨に残し、こんのすけは今度こそ姿を消した。
こんのすけの案内で汚じさんと歌仙は本丸の設備の説明を受けていた。審神者の執務室に始まり、談話室や食堂、茶室まで、純和風平屋建ての本丸は非常に広く、様々な設備を備えていた。
最後に訪れた厨も何十人分もの食事を作ることを想定しているのだろう、大人が7.8人ほどいても自由に動ける広さのものだった。ただ、設備は最新式のようで、炊飯器や電子レンジ、ポットなど、汚じさんにも馴染みの深い家電が並んでいる。
「これで全ての部屋の案内が終わりました。本日はこの本丸に慣れていただくためにも終日休暇となります。どうぞご自由にお過ごしくださいませ」
「こんのすけ君、案内どうもありがとう」
「いえいえ、仕事ですから。それでは」
汚じさんが礼を言うと、こんのすけは少し嬉しそうにぺこりとお辞儀をし、姿を消した。喋る狐には大分慣れていたものの、まさか消えるとは思ってもおらず、汚じさんは内心ギョッとした。横目で歌仙を伺うと、綺麗な碧色がまん丸になっているのが見え、親近感が湧いた。
「えっと…歌仙兼定様、お腹空いていませんか………」
その勢いのまま歌仙に話しかけてみる。すると、思いっきり眉をしかめられた。それは顕現のときの表情と似ていて、怒っているようであって、悲しげでもあった。
「主、まず、その敬語と様付はやめてくれ。君は僕の主なんだ、変な気遣いはよしてくれ。それから…いや、これはまた追い追い言うとしよう」
何を言われるかと汚じさんがビクビクしていると、存外優しい声色で歌仙はそう告げた。
「ああ、あと、腹が空いているかと聞いたね。実は、人の身を持ったばかりで、空腹というものがどういうものなのかよくわからないんだ」
汚じさんは審神者研修で習ったことを思い出した。刀剣男士たちは真っさらな状態で顕現される。いわば顕現と同時に人間一年目が始まるのだ。歴史修正主義者達との戦いのことや基本的な生活のことなどはこんのすけが説明をしてくれるが、実践的な人間生活に関しては審神者が教えなければならない。今後刀剣男士の人数が増えれば互いに教えあうこともできるだろうが、現在この本丸には歌仙と汚じさんの2人だけである。必然的に汚じさんが全てを教えることになるであろう。
「そうですか…じゃなかった、そうか、じゃあまずは食事からだね。私が作るから歌仙君は向こうの机で待っていてもらってもいいかな」
「いや、ここで見ていてもいいだろうか」
汚じさんが長年の独り暮らしで覚えたなけなしのレシピを必死に思い出していると、汚じさんのすぐ後ろに歌仙が立っていた。
「いいけど…料理に興味があるの?」
あまり時間がかからない方がいいだろう。頭の中で味噌汁と白米、それから焼き魚でも焼こう等と考えながら米を炊く準備にとりかかる。その後ろを歌仙がとことこと着いてくる。
「興味がある、というより、こうやって覚えたら君に作ってあげられるだろう」
さも当然のように言う歌仙に汚じさんはハッとした。これも審神者研修で嫌という程叩き込まれたことだが、刀剣男士達は自身を顕現した主に無意識のうちに好意を抱く。刀によってその程度は様々だが、一様に自分の主を慕うようである。それゆえ、自身に対して懸想をしていると勘違いをし身を滅ぼす審神者が後を絶たないと聞く。これ程までに見目の麗しい男性に無条件に慕われればそう思い違いをするのも無理はないと汚じさんは一人心の中で納得した。
しかし、何を隠そう、汚じさんはおじさんである。自身の見た目については理解しているし、刀剣男士達の性質だと考えれば心が傾くことはなかった。歌仙は主人と従者という関係性の下で汚じさんを慕ってくれている。可愛いらしいと思うことはあっても、それ以上の感情を抱くことはなかった。
「ありがとう、歌仙君。こんなおじさんのために…」
米を炊飯器にセットして炊飯ボタンを押す。最新式の炊飯器は10分で米が炊けるようになっている。便利な世の中だ。
米が一段落したところで、次は魚だ。冷蔵庫の中にあった塩鮭をグリルに並べタイマーをかける。他人に料理を食べさせるのは久しぶりだ。焦げないように、少しでも美味しくなるようにと祈りながらスタートボタンを押した。
ふと気がつくと、歌仙の気配が背後にない。不思議になって振り向くと、先程の炊飯器の前で不機嫌そうな顔をして立っている。
「あ、あれ、ごめん、歌仙君。私が気に触るようなことを言ってしまったかな…。おじさん、こんなだから、その、君のような若い人の気持ちがわかってあげられなくて…ごめんね」
見た目は青年でも、刀剣男士達の齢は汚じさんより遥かに上である。しかし、今の歌仙の表情は見た目の年相応かそれ以下のように見え、汚じさんは職場で若い部下の機嫌を損ねてしまった時のことを思い出した。
「それだ、それだよ、主。君の悪い癖だ。どうしてそう自分を卑下するんだい」
歌仙の碧色が汚じさんを真っ直ぐ見つめる。しかし汚じさんは歌仙に言われたことがイマイチ理解できない。「自分を卑下」していると言われても、汚じさんが冴えないおじさんであることは単なる事実である。それを卑下と言われても汚じさんにはどうしたらよいかわからなかった。
「で、でもね、歌仙君。私はどう考えてもおじさんだし、背が低くて太っていて、お世辞にも格好いいとは言えない容姿をしている。だから、私のこの性格は、この見た目に相応しいものなんだ。君はこんなのが主になってしまって不本意だろうけど……」
「そうじゃない」
歌仙は汚じさんの言葉を力強く否定すると、汚じさんの目の前まで歩み寄り突然その両手をとった。驚いた汚じさんの手から菜箸が音を立てて落ちた。
「そう、この手だ。僕に触れたこの手から、とても清らかな霊力を感じた。それから、君の眼を見て、心根の優しい人間であることがわかった。そして…そうだね、君となら風流事について語り合えると思った、いや、僕が君と語り合いたいと思ったんだ。
我々刀剣男士に見目なんて関係ない。主として仕えるに値する人間かどうかは内面の問題だ」
歌仙の視線は汚じさんから逸れることはない。こんなにも美しい顔に至近距離で見つめられ、汚じさんは戸惑うばかりであった。しかし、握られた手から伝わる歌仙の力が、その言葉の真摯さを表していた。
「主、もっと自分に自信を持ってほしい。僕は君こそが僕の主に相応しいと思った。君は僕の主人なんだ、もっと堂々としていてくれ」
「歌仙君、どうもありがとう。ただ、私は何十年もこうやって生きてきたんだ。今すぐにこの性格を変えることは難しいと思う。……だから、私が卑屈なことや自分を卑下するようなことを言いそうになったら、君が諌めてくれるかな」
「あぁ、勿論だとも」
にっこりと満足そうに笑った歌仙の顔は大輪の花が咲いたように美しく、汚じさんは思わず目を逸らした。
「主、どうして僕の顔を見てくれないんだい」
繋がれたままの手を歌仙がくいくいと引っ張る。自分よりも背が高く体格も良い男性にされているとわかっていてもなお、その仕草が可愛くて、汚じさんはおかしなことを考えないように必死に目を逸らし続けた。
「だ、だって…歌仙君の笑った顔があんまり綺麗だから、おじさん、こんなに綺麗なもの見慣れてなくって……」
しどろもどろになりながら汚じさんがそう伝えると、歌仙の動きが止まった。汚じさんが不思議に思って見上げるとそこには頰を朱色に染めた歌仙が眼をまん丸にして固まっていた。
「主…君って人は……。自分のことは貶めるくせに、どうして他人のことはそう直球で褒めるんだ」
真っ赤な顔をした歌仙が困ったように言った。だが、その口元には我慢しきれない笑みが浮かんでいる。
「ごめんね、歌仙君。これから君にはたくさん迷惑かけちゃうと思うんだけど、どうぞよろしくお願いします」
「任せてくれ、僕が君を全力で支えるよ」
ピーピーピー
「あ、ご飯もう炊けちゃったね。急いでお味噌汁作るからね」
「ああ、僕にもやらせてくれ」
仲良く厨に並び、ぽつぽつと会話をしながら食事を作る二人の姿をこんのすけは厨の入り口から見ていた。刀選びにも大層時間のかかった審神者である、いざ二人きりにしたが、なんとなく心配になり様子を見にきたものの、要らぬ心配だったようだ。
楽しげな二人を厨に残し、こんのすけは今度こそ姿を消した。
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