月の一 終着駅にして始発駅
少年の腕を伝う血液は、少年の指先まで到達するとそのまま地に落ちることなく凝固していき、一本の刃を形作った。
「これは……?」
不思議そうに刃を見つめる少年に、自警団の一人がこれ幸いと短剣を片手に背後から襲いかかる。反応の遅れた少年に深く突き刺さる――
誰もが、そう予測した。
短剣は地面に深く刺さる。少年は消えており、少年の前方を囲んでいたはずの三人もかなりの距離を取っていた。
そして――
「―――溺れろ」
ぐさり、と赤黒い刃が突き刺さる。それはまたたく間にどろりと流れ、男を呑み込んでいく。
まるで、溺れさせるかのように、引きずり込むかのように。
「な、何だこれは…!!おい、誰か…」
「…無駄だ。どんなにもがいても、足掻いても、誰も助けには来ない。抜け出すこともできない。そのまま血の池地獄で溺れ死ね」
少年の言葉が終わる頃には、男はすでに血溜まりに完全に飲み込まれてしまっていた。
有り得ない、許されざる光景を目の当たりにした自警団は後ずさる。何人かはもう逃げ出してしまっていた。
「梁太郎…あいつ、まさか…」
「……"道化"か」
「"道化"…?って、梁太郎さん!?」
桜音の疑問も聞かず、梁太郎は少年の元へと走る。少年は、周りの自警団を気にすることなく足元の血溜まりをただただ見つめていた。
「ど、どうしよう、光壱…」
「……俺らは一旦隠れるぞ。梁太郎なら、大丈夫だ」
「う、うん…分かった」
残された二人はまた少し遠くの物陰に身を隠し、見守ることにした。
「……俺、は…」
血溜まりを眺め硬直するその背に、黄色い羽織がかけられた。
「……君が"そこに血溜まりはない"と思えば血溜まりは消えるよ」
「どういう、ことだ…」
「それが君の力だ。有り得ないものを有り得るものにする、有り得るものを有り得ないものにする…見る者を騙す"道化"…それが、君の"ツキゴヨミ"だ」
そう言うと、梁太郎はいつの間にか持っていた刀に手をかける。が、その手は遮られた。
「君……」
「やめてくれ」
「…どうして?」
「…これは、俺の問題だ。俺が終わらせなきゃならない。あんた達は、何も関係ないんだ。ただ巻き込まれただけなんだ。だから――」
『梁太郎、これはな、俺の問題なんだよ。俺が終わらせないといけない。お前達は、この俺 に巻き込まれただけだ。だから――』
少年の言葉によって、梁太郎の脳裏によみがえる記憶。少年のあとに続く言葉は、容易に想像出来る。罪悪感は、そうかんたんには消えやしない。
やめてくれ、その先を言わないで、思いは募れど、声にならない。気づけば、頬を何かがつたっていった。
「俺を置いて行け」
『俺を置いて、逃げてくれ』
「これは……?」
不思議そうに刃を見つめる少年に、自警団の一人がこれ幸いと短剣を片手に背後から襲いかかる。反応の遅れた少年に深く突き刺さる――
誰もが、そう予測した。
短剣は地面に深く刺さる。少年は消えており、少年の前方を囲んでいたはずの三人もかなりの距離を取っていた。
そして――
「―――溺れろ」
ぐさり、と赤黒い刃が突き刺さる。それはまたたく間にどろりと流れ、男を呑み込んでいく。
まるで、溺れさせるかのように、引きずり込むかのように。
「な、何だこれは…!!おい、誰か…」
「…無駄だ。どんなにもがいても、足掻いても、誰も助けには来ない。抜け出すこともできない。そのまま血の池地獄で溺れ死ね」
少年の言葉が終わる頃には、男はすでに血溜まりに完全に飲み込まれてしまっていた。
有り得ない、許されざる光景を目の当たりにした自警団は後ずさる。何人かはもう逃げ出してしまっていた。
「梁太郎…あいつ、まさか…」
「……"道化"か」
「"道化"…?って、梁太郎さん!?」
桜音の疑問も聞かず、梁太郎は少年の元へと走る。少年は、周りの自警団を気にすることなく足元の血溜まりをただただ見つめていた。
「ど、どうしよう、光壱…」
「……俺らは一旦隠れるぞ。梁太郎なら、大丈夫だ」
「う、うん…分かった」
残された二人はまた少し遠くの物陰に身を隠し、見守ることにした。
「……俺、は…」
血溜まりを眺め硬直するその背に、黄色い羽織がかけられた。
「……君が"そこに血溜まりはない"と思えば血溜まりは消えるよ」
「どういう、ことだ…」
「それが君の力だ。有り得ないものを有り得るものにする、有り得るものを有り得ないものにする…見る者を騙す"道化"…それが、君の"ツキゴヨミ"だ」
そう言うと、梁太郎はいつの間にか持っていた刀に手をかける。が、その手は遮られた。
「君……」
「やめてくれ」
「…どうして?」
「…これは、俺の問題だ。俺が終わらせなきゃならない。あんた達は、何も関係ないんだ。ただ巻き込まれただけなんだ。だから――」
『梁太郎、これはな、俺の問題なんだよ。俺が終わらせないといけない。お前達は、この
少年の言葉によって、梁太郎の脳裏によみがえる記憶。少年のあとに続く言葉は、容易に想像出来る。罪悪感は、そうかんたんには消えやしない。
やめてくれ、その先を言わないで、思いは募れど、声にならない。気づけば、頬を何かがつたっていった。
「俺を置いて行け」
『俺を置いて、逃げてくれ』
6/6ページ