月の一 終着駅にして始発駅
――――――
なんで
どうして
助けてくれなんて言ってない
言ったところで無駄だと知っているから
なのに、なんで
こんなに、懐かしいんだ
――――――
「真実を求める謀反者だと…!?日田切様のおさめているこの世こそ真実だ!」
「奴らを捕らえよ!」
梁太郎の言葉によって焚き付けられた自警団は、四人を捕らえようと襲いかかる。
しかし、それは淡い緑色の壁によって遮られた。
「守護壁術、守の一、"白緑 "」
梁太郎によって一瞬で展開された術により、自警団の手が四人に届くことはなかった。身を守る術、"守護壁術"の中でも最も低級の術式だが、力のみの彼らには十分な足止めとなった。
「光壱君、今のうちに彼と桜音ちゃんを」
「…いや、そうやってる暇はねえし、その心配はねえよ」
「え?でも……」
「……梁太郎さん、光壱の言うとおりです。確かに今足止めはできてるし、光壱なら一瞬で私達を遠くに運べる。でも、私は、黙って遠くから見てる事なんて出来っこないんです。だって…」
その時、ついに自警団の力が強まり、壁に亀裂が生じた。梁太郎は第二の壁を生成しようとするが、それを桜音に止められた。
「桜音ちゃん…?」
「…私も、おんなじなんですよ」
そう言って桜音は亀裂に向けて手をかざす。桜音の掌に淡い桜色の光が集まる。
「光壱、構えててね。
吹っ飛んじゃえ!"爆風桜 "!!」
桜色の光は強く輝いて爆風となり、亀裂の入った壁ごと周囲にいた自警団を吹き飛ばした。その横を、一頭の狼が素早く駆け抜ける。焦げ茶色の毛並みと緑の瞳を持つ狼は、爆風から逃れた自警団に喰らい付くかのように追い詰め、その姿を変える。
「これで、わかっただろ?」
そこにいたのは、紛れもなく人間の姿をした光壱。とっさの出来事に呆然としている自警団に容赦無い蹴りを叩き込み、一気に梁太郎たちの元へ戻る。
「な?心配ねえっていっただろ」
「…なるほどね」
「それより、九一!大丈夫か?」
光壱は梁太郎の背後に庇われている少年に声をかける。驚きとも、恐怖とも言えない表情の少年は、目の前の光景をただ見つめていた。
「……その力は、なんだ?なんで、使う…そんなことしたら、あいつが」
「それでもいいんだ。私達は、この見せかけの均衡を崩すつもりだからね。
…君も、そうだろう?」
少年は俯く。まるで、もうどうにも出来ないと悟っているかのように、血が滲むほど強く自分の腕を掴む。
それが、彼の変わり目でもあることを、梁太郎だけが察した。
「おのれ……貴様等っ!!」
光壱の蹴りを受けた自警団が銃を構える。それにならい、他の者たちも構える。
「"ツキゴヨミ"は万能たる神の能力…この世の均衡を崩すものだ。それを持つものが今ここに四人もいる…それはあってはならないことだ!」
「四人……?俺は…」
―俺は、違う。
"ツキゴヨミ"?神の能力?
それを、俺が?
そんなわけない
そんなわけ、ないんだ―
少年の腕をつかむ力は更に強くなり、爪が食い込んで血が流れる。
だが、その血が滴り落ちることはなかった。
なんで
どうして
助けてくれなんて言ってない
言ったところで無駄だと知っているから
なのに、なんで
こんなに、懐かしいんだ
――――――
「真実を求める謀反者だと…!?日田切様のおさめているこの世こそ真実だ!」
「奴らを捕らえよ!」
梁太郎の言葉によって焚き付けられた自警団は、四人を捕らえようと襲いかかる。
しかし、それは淡い緑色の壁によって遮られた。
「守護壁術、守の一、"
梁太郎によって一瞬で展開された術により、自警団の手が四人に届くことはなかった。身を守る術、"守護壁術"の中でも最も低級の術式だが、力のみの彼らには十分な足止めとなった。
「光壱君、今のうちに彼と桜音ちゃんを」
「…いや、そうやってる暇はねえし、その心配はねえよ」
「え?でも……」
「……梁太郎さん、光壱の言うとおりです。確かに今足止めはできてるし、光壱なら一瞬で私達を遠くに運べる。でも、私は、黙って遠くから見てる事なんて出来っこないんです。だって…」
その時、ついに自警団の力が強まり、壁に亀裂が生じた。梁太郎は第二の壁を生成しようとするが、それを桜音に止められた。
「桜音ちゃん…?」
「…私も、おんなじなんですよ」
そう言って桜音は亀裂に向けて手をかざす。桜音の掌に淡い桜色の光が集まる。
「光壱、構えててね。
吹っ飛んじゃえ!"
桜色の光は強く輝いて爆風となり、亀裂の入った壁ごと周囲にいた自警団を吹き飛ばした。その横を、一頭の狼が素早く駆け抜ける。焦げ茶色の毛並みと緑の瞳を持つ狼は、爆風から逃れた自警団に喰らい付くかのように追い詰め、その姿を変える。
「これで、わかっただろ?」
そこにいたのは、紛れもなく人間の姿をした光壱。とっさの出来事に呆然としている自警団に容赦無い蹴りを叩き込み、一気に梁太郎たちの元へ戻る。
「な?心配ねえっていっただろ」
「…なるほどね」
「それより、九一!大丈夫か?」
光壱は梁太郎の背後に庇われている少年に声をかける。驚きとも、恐怖とも言えない表情の少年は、目の前の光景をただ見つめていた。
「……その力は、なんだ?なんで、使う…そんなことしたら、あいつが」
「それでもいいんだ。私達は、この見せかけの均衡を崩すつもりだからね。
…君も、そうだろう?」
少年は俯く。まるで、もうどうにも出来ないと悟っているかのように、血が滲むほど強く自分の腕を掴む。
それが、彼の変わり目でもあることを、梁太郎だけが察した。
「おのれ……貴様等っ!!」
光壱の蹴りを受けた自警団が銃を構える。それにならい、他の者たちも構える。
「"ツキゴヨミ"は万能たる神の能力…この世の均衡を崩すものだ。それを持つものが今ここに四人もいる…それはあってはならないことだ!」
「四人……?俺は…」
―俺は、違う。
"ツキゴヨミ"?神の能力?
それを、俺が?
そんなわけない
そんなわけ、ないんだ―
少年の腕をつかむ力は更に強くなり、爪が食い込んで血が流れる。
だが、その血が滴り落ちることはなかった。