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月の一 終着駅にして始発駅

『みなさん、こんにちは。日田切瑛祐です』
モニター越しの英雄は人当たりの良い笑みと巧みな話術で人々を惹きこむ。しかし光壱、梁太郎、そして桜音はそれがすべて偽りであることを知っていた。

そしてそれは、三人だけじゃなかった。

『さて――この世界を平和に、平等にするためには、不平等であり、争いのもととなる"異質な力"はなくさなければならない。
そして、この世の中、一番に排除しなければならない人種がいます
それが、我等力を持たない人類の敵、神にも匹敵するとされる特殊な能力――"ツキゴヨミ"。これを持つ人種がいる限り、完全な平和は訪れません。
……悲しいことに、我が愛息子、日田切……いえ、雪月九一も、"ツキゴヨミ"だという…愛する息子に手をかけることになってしまうのは、とても心苦しいものですが――』
人々が英雄の語りに聞き入って静まり返る中、三人は聞いた。ひどく小さい、それでいて、強く訴える声。誰の耳にも入らないようなその言葉は、彼らのもとに届いた。
「なにが愛だ、心苦しいだ…そんなこと、微塵も思っていないくせに……」
声のした方向には、光壱が「九一」と呼んだ少年。そして、日田切瑛祐が「愛する息子」と言った少年。
三人が彼に近づこうとすると、近くに控えていたのであろう自警団が、彼を取り囲んだ。
モニター越しに高みの見物、といった態度の英雄は言い放った。

『我が息子でありながら、"ツキゴヨミ"である謀反者、雪月九一を捕らえよ』

その発言を機会として、自警団が少年に銃口を向ける。そのうちの一人が一歩前に出て口を開いた。
「お前、雪月九一だな?」
「……だとしたら」
「おとなしく我々について来い。お前の父上、日田切様がお呼びだ」
銃口を向けられても顔色一つ変える様子のない少年は、ただただ、モニターに映る英雄を睨みつけていた。
「おい、聞いているのか!」
「……父上、か…それがなんだ。嘘偽りしか言わないような典型的な偽善者のくせに」
「なっ…!!日田切様は、お前のことを思って…」
「……聞き飽きた。…愛なんて微塵もないくせに、よく言うよ」
少年のその言葉が彼の怒りに触れたのだろう、彼は構えていた銃を下げ、少年へと殴りかかった。

しかし、その拳は少年には当たらなかった。
「やれやれ……虚実だけを信じて、真実を語る者に怒りをあらわにするとは……そうとう、目が眩んでいるとみた」
いつの間にか少年と彼の間に割って入っていた梁太郎は、彼の拳を受け止めていた。そして少年を囲むようにして光壱と桜音が立つ。
「な、何者だ!!なぜ邪魔をする!」
「何者……ねえ。何者でもいいだろう?君たちの障害には変わりないのだから」
「そうだな。わざわざ言うのも馬鹿らしい」
「言ったところで面倒くなっちゃうのも嫌だし?」
「まあでも、これだけは言っておこうか」
梁太郎は受け止めたままの拳に全体重をかけて押し戻す。押し戻された自警団はあまりにも瞬間的な出来事に大きくよろけてしまった。

「私達は真実を求める者。君達の言う…"謀反者"だ」
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