このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

月の一 終着駅にして始発駅

暗い雰囲気の中、寝台列車は停まる。自警団にも、街の人たちにも気付かれないように、人気のないところで。
「…着いたよ、光壱君。ここが……終点だ」
梁太郎は俯いたままの光壱に声をかける。光壱はため息をつくと、何も言わずに立ち上がり、列車を降りる。
その後に続くようにして梁太郎も降り、術で寝台列車を隠した。

先を行く光壱を追うようにして、梁太郎は語る。
「光壱君、ここが終点であることは、私の術が示したものだ。この術は…」
「意味のある場所へと導く、だろ?けど、俺にはそうは思えねえ。お前にとっては違うけど、俺にとってはふりだしに戻っただけなんだよ」
「そうだとしても、何か意味が…」
梁太郎が続けようとしたその時、光壱が立ち止まって少し遠くに見える駅の広場を見つめる。梁太郎もそれにならって見ると、広場には大勢の人が集まっており、その全てが駅の大型モニターを見つめていた。その中で、一人の少女がこちらへと走ってくる。
梁太郎が警戒して身構えると、光壱がそれを制した。

「こういちぃー!!」
「久しぶりだな、桜音」
「ほんっとだよー!お帰りなさい!」
桃色の髪をなびかせてこちらへとくる少女は、満面の笑みで光壱に飛びつく。梁太郎はその様子を微笑ましく思いながらも思い浮かんだ疑問を口にした。
「光壱君、その子は君の知り合いなのかい?」
梁太郎がそう聞くと、少女は今存在に気づいたのか慌てて光壱から離れて梁太郎に向き直る。
「ごめんなさい!すっごく久しぶりだったからつい……あ、私は卯月桜音うづき さくねです!光壱とは幼馴染なんです」
「桜音ちゃん、か。私は季秋梁太郎。光壱君とは旅先で知り合ったんだ」
「そうなんですね!光壱がお世話になりました」
「おい……」
深々と頭を下げる桜音の頭を光壱が軽く叩き、本題を切り出す。
「桜音、あの人だかりはなんだ?」
光壱が目線を向けた先は、駅の広場の人だかり。桜音は表情を強張らせ、二人の様子を伺うように口を開いた。
「…もうすぐ、演説の中継が始まるの。誰のか…なんて、言わなくても分かるかな……って、梁太郎さん?」
すべてを聞き終える前に、梁太郎は人だかりへと向かっていた。桜音と光壱が慌てて後を追うと、少し行ったあたりで立ち止まった梁太郎は、人だかりからかなり離れた場所にいる人影を見つめていた。
「……あの子」
「あ?あ…あいつ、九一じゃねえか」
「九一?」
「ああ、雪月九一ゆきづき くいち。高校のときのクラスメイトだ」
「……そうか………―――」
「梁太郎さん?今…」
その瞬間、定時を知らせる鐘がなる。同時に、大型モニターに映った中継先で、演説が始まった。
3/6ページ
スキ