このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

月の一 終着駅にして始発駅

「…なあ、本当にもう終点なのか」
少年は暗い顔で、向かい合って座る青年に問う。
「本当だよ。次の駅、"六徳りっとく"…君の故郷に着けば、あとは来た道を戻ることしかできない」
優しい眼差しを向ける青年は、少年の苦しみを汲み取りながらも、事実を述べた。それを聞いた少年は、そうか、とだけ呟いて、癖毛隠しのハンチング帽を強く押さえてうつむく。どれだけの苦しみを、悔しさを、その心に抱えているのかは計り知れない。
目を背けるように外を見れば、立派な街並みが近づいてくる。その街並みのあちこちに見える、"英雄 日田切瑛祐かたぎり えいすけ"の文字。これこそ、少年が旅に出た目的である。

この世界には、特殊能力、異能力といった異質な力が一定の人間に与えられている。それらを持たない者たちでも、修練を積めば魔術などを習得することができた。それによって、人々は生活を安定させてきた。しかし、同時に争いも多く起こり、数多の国々は繁栄と衰退を繰り返し、強い力を持った国だけが残った。
それを不平等だと訴え、立ち上がったのが、現在"英雄"と讃えられ、この世界の統帥となった男、日田切瑛祐である。
彼は力を持たぬ者たちに"科学"という武器を与えた。それによって力をつけた者たちを率いて、世界を平定し、均衡をもたらした。

しかしそれは、一部の者たちにとって仮初の均衡でしかなかった。

異質な力を敵視する日田切瑛祐は、ある人種を強く嫌っていた。
"ツキゴヨミ"――十二に分けられた神の力を与えられた人々。
これこそ争いの始まり、不平等の象徴と強く思う彼は"ツキゴヨミ"に関連する全てを絶やそうと動き出し、手始めに魔術などといった、ありとあらゆる異質な力を根絶させた。それが原因となって滅亡した国や民族も多く、やがて異質な力を持つ者たちは、怯えるように身を隠して過ごすようになった。

少年――禊月光壱けいげつ こういちは"ツキゴヨミ"を持つ一人であり、同じく"ツキゴヨミ"を持つ仲間を探すために旅に出た。その道中、窮地に陥った彼を救ったのが青年――季秋梁太郎きしゅう りょうたろうである。
彼もまた光壱と同じ"ツキゴヨミ"であり、世界の均衡の真実を知るために仲間を探していた。
同じ目的を持つ二人は仲間を探すために、梁太郎が自身の"ツキゴヨミ"で操作する古びた寝台列車に乗り、各地を旅した。

しかし、仲間を見つけることは叶わず、彼らが見たものは、日田切瑛祐によって根絶された"異質な力"を持つ者たちの悲惨な現状。現在の世界の均衡が仮初であることを表す光景。
各地へと配置された自警団によって厳しく管理され、少しでもその片鱗を見せたものは罰せられ、酷い時には処刑される。

――なにが平和だ、何が均衡だ。
この世界を作り上げた力を毛嫌いして、迫害して、不平等だの争いのもとだの理由をつけて虐殺する?
それこそ不平等なんじゃないのか。
均衡の裏側を目にした光壱は、吠える。意思も決意も新たに、梁太郎とともにさらに旅をする。

しかし、その旅は予期せぬ終わりを告げた。
2/6ページ
スキ