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霞に紛れて、君に近づく【時透無一郎】
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鬼を追って、山の奥まで辿り着く。
「ちゃんと追ってきたか」
鬼は足を止め、またニタリと笑う。
辿り着いたその先には、
隊士たちが血を流して地面に倒れている姿。
「………っ」
茉子は思わず目を背けた。
「一箇所に集めた方が、食べやすいだろ」
その言葉に茉子は顔を上げ、木の上にいる鬼を見た。
(……ふざけんな)
その言葉は飲み込んだ。
ただ、その代わりに体が少し震えた。
怒りで。
——余計なこと言ってないでちゃんと戦いなよ
無一郎の言葉が、頭の片隅にある。
「ハハッ、怖くて動けないか」
「………」
茉子は息を深く吐いたあと、大きく吸う。
「……この状況で向かって来ようとするその姿勢は嫌いじゃない」
鬼はそう言った瞬間、木の上から消えた。
「………また……っ」
(……いや、違う。速いんだ…!)
背後から微かに気配を感じ、
茉子は振り向きざまに刀を振る。
「弐ノ型 水車!」
再び鬼の腕を掠める。
「………?」
(……当たったはずなのに……!)
鬼は茉子の目の前で笑っている。
「……へぇ」
そう言いながら、自身の掠った傷を舐める。
そしてまた消えたかと思うと——
「いいじゃん。さっきより“見えてる”」
——茉子の耳元で囁く。
「……ちょっと前の俺がね」
「………!!!」
(………まずい!!)
ゼロとも言えるその距離の近さに
茉子は咄嗟に刀を振り、
攻撃されることを予測して身を捻る。
しかし——
「……うっ……!!」
鬼の拳が茉子の右肩に入り、
バキッと音を立てる。
その衝撃で体が飛ばされ、
そのまま強く木に叩きつけられた。
(……やばい、呼吸が……!)
背中が木に叩きつけられた衝撃で
息がうまく吸えずに呼吸が乱れる。
(……“見えてる”のは、“ちょっと前の俺”……?)
茉子は呼吸を整えながら刀を強く握り、考える。
「腹を殴って内臓を潰そうと思ったが、うまく避けたな」
鬼はゆっくりと近づいてくる。
「まだ刀を振る気か?肩の骨は折れているというのに」
「……っ」
茉子は立ち上がる。
「……折れようがなんだろうが、関係ないから」
それを聞いた鬼は、声を上げて笑う。
「いいねぇ、気に入ったよ。最後に、特別に教えてやる」
鬼は再び姿を消す。
「お前が見ているのは……俺の残像」
鬼は少し笑う。
「お前は、俺の残像に向かって攻撃しているだけだ」
「…………」
「まぁ、理屈がわかったところで、お前に俺の頸は斬れないだろうけどな」
(……ムカつく……)
——でも
(広範囲に攻撃して、仮に頸に当たったとしても
頸を落とすほどの力で斬り込むのは難しい、かも……)
茉子は刀を握り直す。
(……っ、来る………!!)
「…………!」
刀を振る——
鬼の速度は、先ほどより速い。
(間に合わな——)
その瞬間、
目の前に現れたのは鬼ではなく——
「もう、あんまり動かないで」
——刀を構えた無一郎の背中だった。