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霞に紛れて、君に近づく【時透無一郎】
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翌日。
茉子がいつもの稽古場に着くと、無一郎はすでに来ていた。
「……早いね」
「茉子もね」
「今日は普通だよ」
「昨日もそう言ってたけど」
「…………」
「違ったんだ」
「うるさい」
無一郎は少し笑った。
その後、二人は木刀を持って山の中へ。
水の呼吸を使っての実戦稽古。
無一郎は使わない。
茉子の動きや癖を見て、それを的確に指摘していった。
「今日は、ここまでにしようか」
「はーい」
茉子は「あーつかれた」と言いながら木刀をしまい、木に立てかけた。
帰り道。
無一郎は口を開く。
「あ、そうだ」
「何?」
「明日からしばらく来れないから」
「……任務?」
「うん。何日かかるかわからないけど」
「……そっか」
茉子はそれだけ答えた。
何日か。
たったそれだけなのに、思っていたより長く感じた。
「…………」
木刀をいつもの場所に戻す。
明日から、しばらくここに来ても無一郎はいない。
そう思うと、少しだけ胸の奥が重くなる。
けれど、任務なのだから仕方がない。
「……じゃあ、帰るね。また何日か後にここで——」
「……茉子」
名前を呼ばれた茉子は、振り向く。
「ん?」
「…………」
「なに?」
「……町、行く?」
(…………え?)
茉子は、一瞬意味がわからず無一郎を見た。
「……今から?」
「うん」
「……あぁ、何か用事があるとか?」
「いや、別に」
「…………?」
「何か食べればいいでしょ」
「お腹空いてるの?」
「……茉子は?」
「ちょっと」
「じゃあ、行こう」
任務でも、稽古でもない。
それなのに、どうして。
聞こうと思えば、聞けた。
けれど——
「……うん。行く」
今は、それでいい気がした。