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霞に紛れて、君に近づく【時透無一郎】
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茉子は、任務で傷を負うことが少なくなっていた。
しかし稽古で無一郎の木刀にやられるので、茉子の身体には結局、いつもどこかしらに傷があった。
「あー……いったいなぁ……」
「無駄な動きが多いんじゃない」
「うるさいな」
今日は一緒の任務だった。
先ほどまで稽古をつけてもらっていたので、その流れで一緒にその場所へとやってきた。
その場所に辿り着くと、既に到着していた隊士たちが一斉にこちらを見た。
「………」
「………?」
茉子は一瞬、違和感を覚える。
「柱、お疲れ様です!」
隊士たちはそう言って頭を下げた。
「状況は?」
「はい!何体かは倒しましたが、親玉のような鬼がまだどこかに……」
「あ、そう」
無一郎はそう言って、前に向かってスタスタと歩いて行った。
隊士たちと茉子は、その場に残される。
「…………」
「…………」
「……な、何か……?」
隊士たちの視線を感じ、茉子は口を開いた。
「……いや、別に?随分親しげだなと思って」
会話を聞かれていたのだろうか。
いくら無一郎にいいと言われても、任務中は敬語くらい使った方が良かったのかもしれない。
「…………」
茉子が黙ると、他の隊士も話し始める。
「水柱とも親しいらしいじゃん」
「……そ、それは、兄弟子だからで……」
「俺知ってる。霞柱に、稽古つけてもらってるんだろ?」
「マジかよ。継子でもないのに?」
「柱もやっぱ、女には甘いんだな」
「…………」
無一郎は、そんな人じゃない。
言い返したかった。
けれど、柱に稽古をつけてもらうのが特別なことであるのもまた、事実だった。
そして、茉子が俯いたその時だった。
上方から鬼の気配。
他の隊士たちが刀を構えるより先に、茉子は刀を抜き、跳んでいた。
「水の呼吸——」
茉子は高く跳んで、鬼の頸へと向かう。
「——壱ノ型 水面斬り!」
隊士たちから見た茉子の動きは、まさに一瞬だった。
「……え?」
「はや……」
鬼は塵となって消えていった。
茉子が着地する。
無一郎は、その様子を少し離れたところから見ていた。
柱として任務に呼ばれて、刀を抜かずに済んだのは初めてだった。
自分が斬るまでもなく、隊士が鬼の頸を落とした。
それも——
「……できたね」
その声に、茉子と隊士たちが振り向いた。
「悪くないんじゃない」
無一郎の口元が、わずかに緩んでいた。
「……で?」
無一郎は隊士たちを見る。
「……は、はい?」
「さっき、何か言った?」
「「「……………」」」
隊士たちは固まった。
「継子じゃないと稽古つけちゃいけないの?」
「「「……………」」」
「茉子に稽古つけるって決めたの、俺なんだけど」
「「「……………」」」
(……全部聞いてたんじゃん……)
なんだか気まずい茉子。
「それに」
無一郎は、わずかに眉を寄せた。
「女だからじゃないよ」
隊士たちはずっと黙っていたが、それを聞いて恐る恐る口を開く。
「……じゃ、じゃあ、なんで……」
「何が?」
「なんで、そいつだけ……」
「……………」
——なんで?
無一郎は、茉子を見た。
初めて見たのは、鬼を倒したい、その気持ちだけで刀を振っている姿だった。死にたいのかなと思った。
すぐに怒って言い返してくるのに、素直なところもあって。
何度木刀で転がしても、立ち上がってくる。
「なんでって……」
「………?」
無一郎は再び、隊士を見た。
「茉子だからでしょ」
その言葉に、隊士たちはもちろんのこと、茉子もピタリと止まった。
無一郎は何事もなかったかのように、その場を去っていった。
「……………」
茉子は、その場に立ち尽くしていた。
(……『茉子だからでしょ』……?)
それは、理由なようで、理由になっていないようにも取れる言葉だった。
「…………」
なぜか、胸の奥が落ち着かなかった。