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霞に紛れて、君に近づく【時透無一郎】
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その後、茉子は蝶屋敷で手当を受け、
ベッドの上で療養中だった。
隠に託すべきだったという話であったが
無一郎の移動が速いあまり
結局1番に屋敷に辿り着いたのだった。
「……痛……」
窓から日の光が差し込む。
茉子は、天井を眺める。
ふと、冷静になる。
あの時、無一郎が来なかったら
どうしていただろうか。
闇雲に技を放って、仕留められたのだろうか。
(……死んでた、かも)
地面で倒れていた隊士たち。
その姿が、やたらと鮮明に蘇ってくる。
「…………」
少しだけ考えたあと、
茉子は首をブンブンと横に振った。
(……落ち込んでる暇なんてない)
しかし、ズキズキと痛む腕。
死と隣り合わせであることを再認識する。
いつも勢いで乗り切っているが
この頃、怪我だらけだ。
「…………」
ぼんやりと考えていると
コンコン、と戸が叩かれる音がした。
「……あ」
視線をやると
そこにはいつもの様子の無一郎がいた。
疲れている様子も、眠たい様子もない。
連れてきてもらったあと、
無一郎はすぐに姿を消した。
しのぶから
「柱は、報告やら色々、雑務もあるんですよ」
と教えてもらった。
(……忙しいはずなのに)
視線が合ったが、沈黙。
この2人にとっては、珍しい。
「処置、終わったって聞いたから」
「う、うん……」
無一郎は、包帯の巻かれた茉子の肩を見る。
「……痛む?」
「……え?あ、大丈夫だよ。痛み止め効いてるみたいだし……!」
茉子は視線を逸らしたまま、小さな声で言う。
「胡蝶様が、『これなら早く治りそうです。時透くんは応急処置が上手ですね』って……」
「……そう」
無一郎は、いつものようにぶっきらぼうに言って
近くの椅子に腰掛けた。
「……あ、あのさ」
少し沈黙したあと、茉子は口を開く。
「無一郎って、いつ寝てるの?」
「……いつって……普通に寝てるけど」
「いやいや、そうじゃなくって、今とか……!」
「今?」
仮に怪我していなくても、任務の後は疲労困憊だ。
しかし柱は、
自分の任務、他の隊士のフォロー、雑務……
少し想像しただけでも目が回りそうになる。
無一郎は少し黙ってから、口を開く。
「……僕のことは、別にいいでしょ」
「え?なんで?」
「なんでって言われても……」
「………?」
「君は?」
「……え?わたし?」
茉子は、思わず目を丸くする。
「疲れるでしょ。そんな呼吸の使い方してたら」
「……はい?」
「もっと極めないと、命がいくつあっても足りないと思うけど」
「…………」
(一瞬でも、労う気持ちを持った私のバカ……)
茉子はそう思いながら、
ため息を吐いて無一郎を見る。
ただ——
命がいくつあっても足りない
これに関しては、正直同意だ。
「まぁ、致命傷を避けられてるだけいいけど」
少しだけ間を空けて、再び口を開く。
「普通、あの状況なら死んでる」
「………」
「そうやって怯えていく人が多いんじゃないかと思う」
「………」
「でも君は……」
無一郎は、茉子の目を見た。
「…………」
「………?」
無一郎は、目を見たまま沈黙した。
茉子は首を傾げる。
「……なに?」
その問いかけに、視線を逸らす。
「……変だなって」
「……なにそれ」
茉子がそう言うと、再び2人の視線が合う。
どちらからでもなく、フフッと笑い声が出た。
「変なのはそっちでしょ」
「何を言っているのかな。『すごい』の間違いじゃない?」
無一郎は、あえて余裕の笑みだ。
その表情は年齢に似合わずどこか艶やかで
一瞬、茉子の鼓動が跳ねた。
「そ、そんなふうに言うんだったら……っ」
「なに?」
「……その……ほんのちょっとでいいから……」
小さい声で。
「……稽古、つけてよ」
無一郎は、思わず目を丸くした。
「……厚かましいこと言ってるって、わかってるつもり。でも、強くならないと……っ」
茉子は、折れていない方の左手で、
シーツをキュッと握りしめた。
「……努力、してるつもりなんだけど、多分私のやり方じゃ、ダメなんだと思うの……」
茉子は俯いたまま、静かに言った。
無一郎は、そんな茉子をまっすぐ見つめたあと
口を開いた。
「……してあげてもいいけど」
「えっ……」
茉子はパッと顔を上げる。
「……冨岡さんは、そういうのしなさそうだし」
「……う、うーん」
「炭治郎も、教えるの苦手そうだし」
「…………」
茉子は少し目を輝かせたそのとき。
「君が、どうしてもって言うなら、ね」
無一郎は再び余裕の笑みで、茉子を見ていた。
(……コ、コイツ、絶対わざと……っ)
茉子は、その言葉をグッと飲み込んだ。
「……いや、だから!お願いしてるじゃん……!」
「え?そう?」
「そうだよっ!!……った!!」
思わず勢いよく動いてしまい、
折れた腕に痛みが走る。
「……やると思った」
「はぁ?!」
「いいから、大人しくしてて」
無一郎はすぐに、
折れていない方の肩にそっと触れて
茉子をベットに横たわらせた。
「……じゃあ、僕はもう行くから」
「……うん」
無一郎は立ち上がる。
そして数歩歩いたところで——
「……あのっ……」
——足だけ止まる。
「……ありがとう」
「………」
無一郎は、少しだけ顔を横にやり、
床に視線を落とした。
「……治るまでは、ちゃんと寝て」
それだけ言って、
今度こそ部屋を出て行った。
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