名字と名前を入れてください
霞に紛れて、君に近づく【時透無一郎】
*名前変換*
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……歩ける?」
「だ、大丈夫……」
手から伝わる体温。
距離が近く、声がいつもより少しだけ低く感じる。
一歩踏み出した瞬間
「……っ」
少しバランスを崩す。
無一郎は咄嗟に茉子の手を引いて、
体ごと引き寄せた。
茉子の体が、一瞬強張る。
「……あ、ごめん。痛かった?」
「……いや、痛いとかでは……」
(近いんだってば……)
「……あ、あのさ」
「何?」
「私のことなんて、隠の人に任せた方が良かったんじゃない?」
「……どうして?」
「だって、柱だったら忙しいでしょ……?」
その言葉に、無一郎の思考が止まる。
(……確かに……どうしてだろう?)
少し黙ったあと、口を開く。
「……そうだね」
「……今の私なんかと歩いてたら、夜が明けちゃうよ」
「………」
茉子の言う通りだ。
これは柱の仕事ではないし
歩けるとはいえ骨折しているのだから
できるだけ安静にして
早めに蝶屋敷に運ぶのが正しい。
つまり、隠に託すべきだったのだ。
「「…………」」
無言で歩く2人。
握られた手は、離される気配がない。
離そうと思えば離せるのだが
手から伝わる体温が、少し心地良かった。
「……ねぇ」
「な、なに?」
無一郎は足を止め、茉子を見る。
「名前」
「……え?」
「呼ばないの?」
「……?」
「僕の名前、知ってるよね?」
「……え?!いや、知ってる……けど……っ」
茉子はそう言いながら、目を逸らす。
「呼んでみてよ」
「むり……!」
「なんで?」
「な、なんか恥ずかしいから…っ」
「……理由になってないんだけど」
「なんか呼びにくい…!」
「意味わかんない。冨岡さんのことは呼んでるでしょ」
「それは……」
「炭治郎だって」
「………」
「どうして僕だけ?」
無一郎は、茉子の顔を覗き込む。
「……ほら」
「………」
「言って」
「…………」
無一郎からは逃れられない圧を感じた。
「……っ……む……」
静かに口を開く。
「何?聞こえない」
茉子は、プイッと横を向く。
「……無一郎……」
茉子の耳元が、赤く染まる。
(……呼んだ)
それを聞いて、無一郎は小さく息を吐いた。
微かに口角が上がる。
「うん」
心の奥が、じんわりと温かくなるような感覚。
(……悪くない)
無一郎は、ふと茉子の足元を見る。
「……やっぱり、歩かせるのはダメか」
次の瞬間、
茉子をヒョイと抱き上げ、歩き始める。
「……は?え??」
戸惑う茉子に、無一郎は淡々と話す。
「痛み止め、まだ効いてるよね?」
「……き、効いてるけど……っ」
「ちょっと揺れるけど、我慢して」
「……え?ちょっと待って?!」
動きが速すぎて、何が起きているのかわからない。
見上げると、無一郎の顔がすぐそばにあり
今、自分が抱えられていることを
ようやっと理解する。
「……蝶屋敷まで走るから」
「……へ?」
この距離で、目が合う。
淡い水色の瞳に、自分の姿が映る。
「大人しくしてて。茉子」
「………っ」
不意に呼ばれる自分の名に、鼓動が跳ねる。
茉子は思わず目を逸らした。
無一郎は、静かに、速く、茉子を抱えて走る。
風が、頬をかすめた。
(……速っ……)
茉子は思わず、無一郎の服を掴む。
支えてくれている腕は、
思っていたよりずっとたくましい。
そっと、視線を戻すと
顔色ひとつ変えずに走り続ける無一郎の顔。
(……なんでこんな涼しい顔してんの……?
これ全速力じゃないの?呼吸どうなってんの……?)
思わず、顔を見つめる。
「……これくらいじゃ疲れないから、安心して」
「……!」
「君とは違うから」
「……はい?」
「え?聞こえなかった?」
「あのさぁ、そもそもそっちの判断が間違ってるんだよね?」
「……それは」
無一郎は少し黙る。
足は止めず、ひたすら走っている。
「……君のせいだから」
「え?」
思わぬ返答。
「ひ、人のせいにしないでよ!私はなにも……っ」
「……舌噛むから、喋らないで」
「………」
(……すごく、文句を言いたそうな顔だな……)
無一郎はそう思いながら、黙って走り続ける。
(……僕は、何を言ってるんだろう)
自分でも、少し驚いている。
いつも、何かを人のせいにすることはない。
ただ、なぜ判断が違えたかと考えた時
茉子が原因であると思った。
——あの子とは、
バッタリ会っただけでたくさんお話するのに
しのぶに言われた言葉を思い出す。
(……話したかった、のか……?何で……?)
風の音に紛れて、
それ以上は、考えるのをやめた。
11/11ページ