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霞に紛れて、君に近づく【時透無一郎】
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無一郎の刀に払われ腕を斬られた鬼だが、傷はすぐに再生する。
「邪魔すんなよ。楽しくやってたところだったのに」
「楽しく……?」
「そうだよ。ただ怯えるだけの人間を殺すのにも飽きていたからな。弱いのに歯向かってくるのは見てて面白い」
「あ、そう」
無一郎は、心底興味なさそうにしていた。
「……話したいことは、それだけ?」
「……あ?」
空気が変わる。
「……生意気なガキが。お前から殺す」
鬼はそう言って姿を消す。
(……また……!)
茉子は鬼を目で追うが、姿は見えない。
しかし、無一郎には迷いがない。
「霞の呼吸——」
(………っ)
無一郎の纏うその空気に、茉子はただただ目を奪われる。
「——肆ノ型 移流斬り」
それは、広範囲でも、何重も重ねるような斬撃でもなく、流れるように一点に刀を振るう技。
鬼の頸が飛び、月夜に照らされる。
そして塵となって消えていった。
茉子は木のそばで座り込んだまま、それを見ていた。
「お、おい、大丈夫か?!」
先ほど会った隊士が、茉子のそばまで駆け寄って来る。
「あ、はい……」
茉子はそう答えながら、視線はずっと無一郎の方にあった。
それを見た隊士は、小さく笑う。
「……やっぱ、さすがだよな、柱は」
「…………」
茉子は数秒止まったあと勢いよく振り向き、その隊士を見た。
あまりの勢いに、その隊士もビクッとする。
「……柱……?!」
茉子は再び無一郎の方を見る。
隊服の裾と長い髪が夜風に靡いていた。
「……あの人、柱なんですか……?」
「え?そうだよ?霞柱の時透無一郎さん」
「……霞柱……」
「新米っぽい女の子の隊士が、止めたんだけど勢いよく向かって行ったって話したら、すげー速さでそっち行っちゃってさ」
「………」
「柱、若いのにすごいよなぁ。君と同じくらいの歳なんじゃないか?」
「…………」
「刀握って二ヶ月で柱になった人」
「……っ?!二ヶ月……!?」
「らしいよ?あ、俺、他の人たちも見てくるわ」
隊士はそう言って、茉子の元を離れる。
隠たちも続々とやって来た。
そして——
「ねぇ」
聞き覚えのあるその声に顔を上げると、目の前に無一郎が立っていた。
「また一人で突っ込んで行ったの?」
「………」
「上の人の言うこと、聞かなきゃダメだよ」
「……だっ……!って………」
「だって助けなきゃと思ったんだもん」
そう言いかけたが、その言葉は飲み込んだ。
「………」
他に言葉が出ない。
「……何?」
「い、いや……その……」
視線が泳ぐ。
「……あの……」
驚きはあった。
ただ、先ほどの戦いを見て、無一郎が柱であることは茉子の中でも確信があった。
「……柱、なんですよね……?」
「そうだけど」
無一郎は、そう答えたあと、続ける。
「……どうして、急に距離をとるの?」
「い、いや、だって……!」
「今まで普通だったのに」
「そ、それは知らなかったからでしょ!」
いつもの調子で返してしまい、茉子はハッとして目を逸らした。
「……僕が柱だと、そうなるの?」
「………っ」
その問いに、茉子は言葉を詰まらせる。
「別にいいんじゃないの」
「でも、さすがに今までと一緒っていうのは……」
「俺がいいって言ってるんだから、いいでしょ」
無一郎はそう言いながらしゃがみ、茉子の肩に手をやった。
「………っ!」
痛みで、茉子はキュッと目を閉じる。
「ちょっと我慢して」
無一郎は、布でグッと、茉子の右腕と肩を固定する。
「痛っ!」
「うん、我慢して」
鬼が消えたことで気が緩んだのか、茉子は突然、痛みを強く自覚する。
「痛い痛い!」
「固定できたら多少良くなるから」
「痛い〜!!痛すぎ!むり!!」
無一郎は、軽く息を吐く。
「……大袈裟」
「骨なんて折れたことないもん!ねぇこれちゃんと治る?」
泣きそうな顔で訴える茉子。
無一郎は、目を丸くしたあと、フッと笑った。
「な、なによ!そっちが、普通でいいって言ったんでしょ!」
「だって、君が僕に敬語なんてムリでしょ」
「ムリじゃないし!ちゃんと使えるし!」
「はいはい」
無一郎はそう言いながら、茉子に瓢箪を差し出す。
「………?」
「胡蝶さんの薬。痛いの、良くなるから」
「…………」
茉子は静かにそれを受け取る。飲むのを見届けると、無一郎は立ち上がった。
「あのっ……」
茉子の声に、無一郎は視線を下ろす。
「……ありがとう……」
無一郎は、少しだけ目を細める。
「……何が」
「……いや、だって……助けてくれたし……」
「………」
「……治療も、してくれたし……」
「………あ」
突然何か思い出したように声を出したあと、無一郎は再びしゃがみ、茉子に近づく。
「僕の言ったことは?」
「……へ?」
「余計なこと言わないで、ちゃんとやれたの?」
顔を覗き込む。
「……や、やったよ。ちゃんと我慢した」
あまりの顔の近さに、茉子は顔ごと視線を逸らす。
「目を逸らすところが怪しいんだけど」
「近いんだってば!」
「え?そう?」
無一郎は首を傾げた。
「時透様!」
隠に呼ばれ、無一郎はスッと立ち上がる。
「応急処置が終わったので、重症者から順に蝶屋敷に運びます」
「うん、そうして」
隠は、無一郎のそばで座り込んでいる茉子を見てギョッとする。
「うわぁ!この人も重症ですね?!」
「うん、でも元気だよ」
「「……え??」」
茉子と隠の声が重なる。
「立てるでしょ?」
(い、いや……立てるけど……)
「君たちは、あっちの隊士たちをお願い」
隠は、戸惑いながらも「はい」と返事をしていた。
柱が言うのだからそう答えるしかない。
(……え?私は……?)
キョトンとする茉子に、無一郎は静かに視線を向け、手を差し伸べる。
「…………」
茉子はそっと、左手でその手を取った。
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むいくん、戦闘とかに入ると「僕」じゃなくて「俺」っていうよね!好き!!