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番外編
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鬼の身体が、塵となって消えていく。
茉子は大きく息を吐いた。
刀の切っ先を地面につけ、柄に両手を重ねる。
ほんの少し、身体を預けた。
「……はぁ……っ」
露の呼吸を使った反動で、全身が重い。
肩も脚も痛む。
それでも、なんとか立っていられた。
茉子は携えていた止血剤の注射器を取り出し、自身に打った。
だが、すぐに出血が止まるわけではない。
(……そうだ、呼吸で止血……)
茉子は息を深く吸った。
蔵の方では、義勇が負傷者たちの様子を確かめていた。
「冨岡様!」
ほどなくして、隠たちが駆けつける。
蔵の前で足を止めた。
「中にも、負傷者がいる」
義勇は短く告げた。
「……承知しました!」
隠たちはすぐに蔵へ向かった。
茉子の呼吸は、うまく整わずにいた。
(……だめ、集中できない……)
「…………」
(……先に、傷を押さえないと……)
ガーゼと包帯を取り出そうとした瞬間、視界が一瞬、ぐらりと揺らいだ。
「……っ!」
傾いた身体を、誰かの手が支えた。
「……座れ」
茉子は顔を上げた。
「……冨岡さん……」
その姿を見た途端、張り詰めていたものが、ふっと緩んだ。
義勇は茉子の顔を確かめるように見てから、ゆっくりとその場に座らせた。
「……すみません」
茉子はもう一度、呼吸を整えようとした。
けれど、思うように息が続かない。
「……見せろ」
「……え?」
義勇の視線は、茉子の右肩に向けられていた。
「あ……傷、ですね」
茉子は肩に手を添えた。
「自分でできます。大丈夫ですよ」
そう言って少しだけ笑う。
その様子を見た義勇は、何も言わず茉子の傍らに膝をついた。
「……動くのか」
「……え? あ、はい。さっきまで刀も振れてましたし……」
しかし、肩をわずかに動かしたその瞬間、強い痛みが走った。
茉子は思わず顔をしかめる。
「…………」
「…………」
「…………すみません、お願いします」
茉子はそっと視線を逸らし、ガーゼと包帯を義勇に差し出した。
義勇はそれを黙って受け取ると、その場から立ち上がり、茉子の背中側に回った。
茉子は隊服の上のボタンを外す。負傷した肩の部分だけ露出させた。まだ少し、出血している。
「……少し、我慢しろ」
「……はい、大丈夫です……っ」
動くたび、肩に痛みが走る。
義勇は傷口にガーゼを当て、ずれないよう押さえながら包帯を巻いていく。
しっかりと固定されると、痛みが少し和らいだような気がした。
あまりの手際の良さに、茉子は思わず振り返り、義勇を見上げた。
「……冨岡さん、処置お上手ですね」
義勇は一瞬、茉子に目を向けた。
「…………」
それから何も言わず、包帯の端を留めた。
「ありがとうございます」
茉子が隊服の襟元に手をかけると、義勇は静かに視線を外した。
「……呼吸に集中しろ」
「はい」
茉子は返事をしたあと、まだ明けていない空を見た。
「……あ!」
「…………」
「……すみません、買ってもらった簪……鬼に投げつけちゃいました……」
「……ああ」
義勇は短くそれだけ答えた。
「……かわいかったのに……」
「…………」
「……あー、思い出したらイライラしてきました」
「…………」
「………………。」
『……あぁ、あの男……随分うるさくなったな』
『…………?』
『心音だよ』
『……心音……?』
『そう。焦れば焦るほど、よく聞こえる。君がどこに逃げようと、全部わかるんだよ』
(……焦れば、焦るほど……?)
茉子は、義勇に視線を向けた。
しかし、戦闘中も今も、表情はいつもと変わらない。
「……………」
「……何だ」
(…………?)
「……いえ、なんでも」
(……違うよね)
茉子は小さく首を振った。
「……そろそろ、戻りましょうか」
そう言って、地面に手をつく。
立ち上がろうとした途端、右脚に痛みが走った。
「……っ」
思わず動きを止める。
「……大丈夫です。ちょっと、脚が……」
義勇は黙って茉子を見ていた。
「……茉子」
「……歩けますから」
「……いい」
「……え?」
「……もう見た」
「……え? 何がですか……?」
次の瞬間、身体がふわりと浮いた。
「……っ!? と、冨岡さん!?」
突然抱き上げられ、茉子は思わず義勇の首に腕を回そうとした。
「……っ」
右肩に痛みが走り、動きが止まる。
義勇は何も言わず、抱える腕にわずかに力を込めた。
「……と、冨岡さん……っ」
「……お前の『歩ける』は理解した」
「……だったら……!」
「……関係ない」
「……か、関係ないって、どういう……っ」
義勇は、茉子を見下ろした。
すぐそばで、目が合う。
「…………」
「…………」
茉子は、ゆっくりと目を逸らした。
左腕だけを、そっと義勇の首元へ回す。
右肩を庇うように身体を寄せると、義勇の腕がしっかりと支えてくれた。
落ちる心配など、少しもなかった。
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無限城編第1章で、義勇さんが炭治郎に「気を抜くな」「止まれ」「落ち着け」っていうシーンありますよね。私、あれ見るたびに炭治郎になりたいって思ってるんですよね(は?)
でね、「止まれ」とか「座れ」とか言われたいなと思ってね、書いた話です。そうです、これだけのために4話です。狂ってます。
表面上は変わってないけど、夢主ちゃんの怪我を見て内心すごく心配したんですよね。見てくださいよこのふらついてから駆けつけるまでの早さを(?)
怪我の処置をする時に必要以上に見ないようにする義勇さんも好き。
2026.10.30
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