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番外編
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「……恋人、ですか?」
茉子は思わず聞き返した。
「ああ」
義勇はいつもと変わらない顔で答えた。
「若い男女が相次いで行方不明になっている」
「……はい」
「いずれも二人連れだったらしい」
「はい」
「祭りの時期に合わせて、被害が増えている」
「……はい」
そこまではわかる。
「だから、俺とお前も恋人として入る」
「…………」
「その方が、鬼と接触できる可能性が高い」
「…………」
「どうした」
「……いえ」
茉子は一度、視線を逸らした。
「……恋人のフリ、ですよね?」
「ああ」
「冨岡さんと、私が」
「……他に誰がいる」
「…………ですよね」
「…………」
「…………」
いや、任務のためだ。
それは別にいい。
嫌とか無理とかではない。
任務だから。
「で……恋人らしくって……何するんでしょう」
「…………」
義勇は少し考えた。
「……近くを歩けばいいんじゃないか」
「…………なるほど」
他に適任はいなかったのだろうか。
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向かったその地には、祭りの屋台が並んでいた。
辺りにたくさんの灯りがあり、夜なのに明るい。
恋人同士らしい若者たちが行き交っていた。
「…….すごい人……」
「……人混みは、鬼にとっても都合がいいだろうな」
二人は任務のため、隊服が目立たないよう、その上から町人風の着物を重ねていた。
茉子の髪は結い上げるには短かったが、下の方で小さくまとめていた。
「…………」
「…………」
一応、近くを歩いてはいるものの、特に話すこともない。
「はーい!そこのお兄さんとお姉さん!飴どうだい?!」
「あ、ありがとうございますっ」
茉子は花の形をした飴細工を受け取った。
「ん?あんたら、兄妹?」
「え?」
「あーいや、2人揃って美形だなと思ってさ!」
「……あぁ、ありがとうございます……」
「……………」
茉子は会釈した。
再び歩き出しその屋台を離れた頃、茉子は小声で義勇に話しかける。
「……冨岡さん」
「……何だ」
「恋人同士だと思われてなかったですけどっ」
「…………」
「しかもこんな、恋人たちが多い中で……っ」
「…………」
「並んで歩いてるだけじゃ、ダメなのかも……」
「…………」
任務に影響があっては、大変だ。
茉子は、辺りを見回す。
皆、手を繋いだり腕を組んだりして笑い合いながら、楽しそうに歩いている。
「……なるほど」
「………」
「……腕組みとか、した方がいいんでしょうか」
「……必要なら、そうすればいい」
「あ。じゃあ……失礼します」
許可を得た茉子は、自身の腕を義勇の腕に絡ませた。
茉子の体温と、柔らかい感触。
茉子は周囲と答え合わせをするように、また辺りを見回した。
「あ!きっとこれです……!」
茉子は顔を上げて、笑顔で義勇を見た。
視線を落とせばすぐそこに、その姿がある。
「…………」
義勇の鼓動がわずかに速くなる。
しかし、茉子はもちろん、義勇本人でさえ、それには気づかなかった。
「屋台の人なら、この辺りのことに詳しい人、いるかもしれませんね」
「……そうだな」
二人は腕を組みながら歩いていく。
しかし、生まれてこの方、人と腕を組んで歩いたことなどない。人混みを避けながら歩こうとするが、二人の動く方向がうまく合わない。
慣れない着物も相まって、茉子の足がもつれた。
「……わっ」
義勇は、組んでいた腕で茉子の体を引いたあと、その片腕で抱き寄せた。
「………っ」
気づけば、義勇の腕の中に収まっていた。
隊服越しに触れる腕は、思っていたよりもしっかりしていた。
あまりの近さに、茉子は一瞬だけ動きを止める。
けれど義勇は茉子に視線を落とすこともなく、辺りの人の動きを見ていた。
「……お前は、こっち側を歩け」
義勇はそう言って茉子を人通りの少ない側へ寄せ、再び腕を組んだ。
自分は半歩前に出て、人の流れから茉子を庇うように歩く。
「……あ、ありがとうございます……」
「…………」
義勇から返事はなかった。
そのまま半歩前を歩く義勇に合わせて、茉子も歩き出す。
先ほどまでとは違い、人の流れを気にして何度も左右へ避ける必要はない。
「…………」
茉子は一度だけ、組んだ腕に視線を落とした。
それから何事もなかったように、前を向く。
任務だから。
片手にある飴細工。
周囲を見渡すと、食べながら歩いている者も多い。
お祭りは、子どもの頃行ったような気もする。
でもそれも、だいぶ前のこと。
「…………」
茉子は歩きながら、飴細工を口に運ぶ。
「……おいしい」
飴の甘みが、口の中に広がった。
「お!そこのお兄さんとお姉さん!」
「………」
「………?」
声のする方を見ると、別の屋台の店主だった。
ふくよかで人当たりが良さそうな女性。
「彼女への贈り物にどうだい?!」
その言葉に、二人はピクリと反応した。
「これは……」
「髪飾りだよ!こっちが簪、そっちがリボン!」
あまり装飾品を見て回ったことがない。
煌びやかだが、これが良い品なのかどうか、茉子にはよくわからなかった。
「お姉さんのその耳飾り、質がいいねぇ」
「あ、そう……ですかね?ありがとうございます」
「その耳飾りなら……これなんか似合うんじゃないかねぇ」
店主が手に取ったのは、淡い桃色の花をあしらった小ぶりな簪だった。
花の傍らには、小さな蝶の飾りがひとつ揺れている。
「……かわいい……」
茉子が呟いた。
「だろ?どうだい?お兄さん!似合うと思わないかい?」
「…………」
義勇は茉子を見たまま、少し沈黙した。
そして
「……そうだな」
「………っ」
「はい!じゃあ決まりだね!」
店主はにっこり笑う。
義勇は代金を支払い、簪を受け取った。
「挿していきなよ!あ、先が少し鋭くなってるから、気をつけてね」
「……ああ」
義勇はそれだけ言って、茉子の髪に触れる。
「………っ」
髪に触れる指先に、茉子は思わず肩を強張らせた。
けれど義勇は気にした様子もなく、小さくまとめられた髪に、簪をそっと挿した。
「あら!やっぱり似合うじゃない!」
店主はそう言って笑った。
「……あ、ありがとうございます……っ」
「……ああ」
二人の様子を見て、店主は再び口を開く。
「あんたたち、いいねぇ!縁結びのお守りの話聞いてきたのかい?」
「………縁結びのお守り……?」
茉子は首を傾げた。
「あれ?知らないのかい?それがあると二人はずーっと幸せに過ごせるって話でさ。でも、そこら辺じゃ買えないのよ」
「………え?じゃあ、どうやって?」
「なんでも、売りにくるらしいよ?選ばれた人たちしか身につけられないってんで、みんなこの辺りウロウロしてんのさ」
「……………」
「……………」
義勇と茉子は、思わず顔を見合わせた。
「ま、あんたたちならいらないか!アハハハ!」
店主は豪快に笑った。
茉子は軽く会釈をして、その場を後にした。
再び、人混みの中を歩く。
「……お守りの話、ちょっと気になりますね」
「……ああ」
「……どうやったら会えるんでしょう?」
「…………」
「出会いたいところですけど、こればっかりはなぁ……」
「………そうだな」
茉子はそう言いながら「あ」と声を上げた。
「そういえば、これおいしいですよ」
茉子は、片手に持っていた飴細工を差し出す。
義勇は少しだけ瞳を大きくしたが、すぐにそれを口に運んだ。
「……甘いな」
「甘すぎました?」
「……いや」
「おいしい?」
「……ああ」
茉子はその返事を聞いて、ふふっと笑った。
そのまま二人は、再び祭りの人波を歩いていく。
先ほどとは違い、すれ違う者に兄妹と間違われることはなかった。
その後も、一通り祭りを見て回った。
金魚を見ては「綺麗」と言い、射的で物が当たれば喜び、くじで当たりが出なければ首を傾げた。
店を回るたびに、茉子は笑っていた。
「…………」
義勇は、楽しそうに笑う茉子を見ていた。
不思議と、悪い気はしなかった。
——と、そのとき。
「お二人さん」
不意に、背後から声をかけられた。
「………っ」
「…………」
二人が同時に振り返る。
「縁結びのお守り、いかがです?」
男はそう言って、手にしていた小箱の蓋を開いた。
中には、赤い紐のついた小さなお守りがいくつか並んでいる。
茉子は、隣にいる義勇を見た。
義勇もまた、こちらを見ていた。
「……嬉しい!これ、いただけるんですか?」
「もちろん。ただ、ここじゃ人が多い。少し向こうでね」
男はそう言って、人混みの向こうを示した。
「………」
茉子は男の顔を窺った。
けれど、目深に被った編笠の下、その表情までは見えない。
その瞬間、義勇と視線が重なる。
それだけで十分だった。
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