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番外編
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「みなさーん!ひるごはんでーす!!」
少し遠くから、アオイの声が聞こえた。
「あ!アオイちゃんの声聞こえた〜!」
「よっしゃあ!飯だ!」
「めしだー!」
「茉子、『あさごはん』だぞ!」
四人はそう言いながら、縁側へと向かって来た。
「ぎゆう、おなかすいたね」
「……っ」
話しかけられると思っていなかった義勇は、瞳を大きくした。
(……怒っていたんじゃないのか……?)
「#dn=1#、おやさいたべれるよ」
「……そうか」
「えらい?」
「……ああ、えらいな」
義勇はわずかに目を細めた。
その様子に、炭治郎もニコッと笑った。
「えーっと、アオイさんどこかな?」
「こっちこっち!こっちから声がしたよー!」
善逸を先頭に声のする方へ向かうと、台所に辿り着いた。
「あぁ、すみません!さっきも言いましたけど、ちょっと人手が足りないので!台所にいくつかおかず置いてあるので、取っていって下さい!」
アオイはお玉を持ちながらそう言うと、病人用であろう器におかずを盛り付けていた。
「ああ!アオイちゃん!ごめんねぇ!!」
「お?食い放題か?!」
「違うわ!アホ!」
「あぁん?!」
「こらこら二人とも!!アオイさん!お皿は洗っておきますね!」
「そうしていただけると、助かります」
義勇と茉子は、その様子を後ろから見ていた。
「あおいちゃん、いそがしい?」
「……そうみたいだな」
「#dn=1#がやる!」
「あ、待て……!」
茉子はそう言ってまた走り出し、アオイの元へと駆け寄った。
アオイは茉子に気づかず、ちょうど数歩下がったところだった。
「わぁ?!」
アオイが持つお盆にあった茶碗が、ガチャン!と音を立てる。割れてはいない。少し味噌汁が溢れただけだ。しかし突然背後に現れた茉子に驚いたアオイは、思わず声を上げた。
「アオイちゃん、大丈夫?」
「……ええ、大丈夫です」
アオイに声をかける善逸。
「こんなところで走るな」
「………」
義勇は、茉子に注意をした。
ごもっともだ。
茉子は静かになり、俯く。
(……しまった……)
もう少し、言い方があったかもしれない。
後悔しても、もう遅い。
茉子は目に涙を浮かべた。
「ああ、ごめんね!私が大きな声出したから……っ」
アオイが慌てて茉子に言うが、涙は溢れる寸前だった。それを見た炭治郎は、その場にしゃがみこんで茉子を見た。
「そっか、茉子はアオイさんの手伝いをしようと思ったんだな」
茉子はコクンと頷く。
「でも、あっついものもあって心配だな。重たいのもあるし。俺、ここだけ持っててもいい?」
コクン。
炭治郎はそうやって幼い茉子に寄り添いながら、器におかずを盛っていった。
「……さすがですね、炭治郎さん」
「ほんとだねぇ。ちゃんと茉子ちゃんの話聞いてから言ってるもんなぁ」
「ガキってのはめんどくせぇな!」
「しー!聞こえるったら!」
「……………」
(……もう寄っては来ないだろうな)
やはり子どもの相手をするのは難しい。
寂しくないと言えば嘘になるが、炭治郎たちのようにはできそうになかった。
朝食を終えたあとも、三人は茉子と遊んでいた。
義勇がそこに混ざることはない。
茉子は、こちらには来ない。
正直、不慣れなことが続いて疲れもある。
だが、しのぶに診てもらうまでは、茉子から離れる気にはなれなかった。
「あらあら。本当に幼子のようになっていますねぇ」
「………!」
不意に背後からしのぶの声がした。
義勇は目を見開いた。
「ぼーっとしすぎなんじゃないですか?冨岡さん」
「…………」
そうかもしれない。
声がするまで、しのぶの存在に気づけなかった。
「それで、これはどういうことなんでしょうか。説明してくれます?冨岡さん」
笑顔だが、笑っていない。
予想通りのしのぶの言動。
義勇は、事の経緯を説明した。
その後、しのぶは診察室で茉子を診た。
「うん、体は異常なさそうです。おそらく、血鬼術でしょうね。数日経てば、元に戻ると思いますよ」
「……そうか」
義勇としのぶは、それぞれ診察室の椅子に座っていた。
茉子はしのぶの膝の上にいる。
「#dn=1#、げんきだよ」
「ふふ、そうですね」
しのぶは、よしよしと茉子の頭を撫でた。
身体に異常がないなら、何よりだ。
蝶屋敷にいるのであれば、安心できる。
「……では、失礼する」
義勇はそう言って、立ち上がった。
「はい、お疲れ様でした」
しのぶもそう言って、茉子を抱きながら立ち上がった。
茉子が義勇を見ると、もう背を向けて歩き出していた。
その背中が、どんどん遠くなっていく。
「……ぎゆう……」
その声に、義勇の足が止まった。
「どこいくの?」
「……帰る」
「なんで?」
「……俺の家は、ここではないからだ」
「……っ」
「……あら?」
「………?」
その瞬間、幼い茉子はしのぶの腕から降りて、義勇に駆け寄った。足にギュッとしがみつく。
「………!」
茉子は、足に顔を埋めたまま動かない。
「……どうした」
義勇が静かに問うと、茉子は顔を上げた。
声は上げない。
ただ、ポロポロと涙だけ溢す。
「……いかないで」
「…………」
「#dn=1#と……いっしょにいて……っ」
義勇はその場にしゃがんだ。
「……泣くな」
「……だって、ぎゆうがぁ……っ」
「……ここがお前の家だ」
「ぎゆう……っ、いないと、やだぁ……」
「……なぜだ。ここにいれば安……」
「ぎゆうっ、すきだもん……っ」
茉子はそう言ったあと、うわぁぁんと大きな声で泣いた。
義勇は目を丸くする。
しのぶはにこにこしていた。
「寂しいですね。抱っこしてもらいましょう」
茉子は泣きながら頷いた。
しのぶは茉子を抱き上げ、そのまま義勇の手に渡した。
「……待て、胡蝶。これはどういう……」
「いやですねぇ、冨岡さん。子どもは正直なんですよ?」
にこにこ。
「……………」
義勇に抱っこされ、茉子は泣き止んだ。
義勇の制服の胸元を、しっかりと握って。
「ふふ。良かったですね、茉子」
「うん!!」
「冨岡さんの、どういうところが好きなんですか?」
「……胡蝶」
「えっとね」
「……茉子」
「なあに?」
「…………」
どうやら茉子は、義勇が自分を制止していることには気づいていない。
「あのね、ぎゆうは、やさしくてね、ヒーローみたいなんだよ!」
「あら、すごい」
「でもね、さっきね、#dn=1#こと、おこったの」
「それは怖いですねぇ」
「でもさ、えっとさ、えっと……」
茉子は一生懸命考えている。
けれど、うまく言葉にできないらしい。
やがて諦めたように、義勇の胸元にぎゅっと頬を寄せた。
「……ぎゆう、すきなの!」
「…………」
「あらあら」
しのぶが楽しそうに笑う。
「良かったですね、冨岡さん」
「…………」
義勇は何も答えなかった。
ただ、帰るために立ち上がることもなかった。
その夜。
「ぎゆう、いかないでね」
寝る時も、茉子は義勇の腕を掴んだまま離れなかった。
「……行かない」
否、行けない。
「……もう寝ろ」
「……だって、こわいもん」
「……何が怖いんだ」
「あそこのすきまから、おばけくるんだよ」
茉子は、壁と戸のわずかな隙間を指差した。
「…………」
「ねたら、つれていかれるんだよ……」
「……見張っておくから、寝ろ」
「………ほんと?」
「……ああ」
「…………」
「…………」
「……ぎゆう」
「……何だ」
「おうた、うたって」
「…………………。」
翌日。
「やだ!」
「…………」
「ぎゆう、いっちゃやだ!」
「……任務だ」
「にんむ、やだ!」
「…………」
茉子は、義勇の隊服の裾を掴んで離さなかった。
柱は多忙。
任務に追われる生活にもすっかり慣れている。
しかし今、過去一番困っているかもしれない。
義勇は小さく息を吐いたあと、その場にしゃがみ込んだ。
「……帰ってくる」
「……ほんと?」
「ああ」
「いつ?」
「……わからない」
「…………」
「だが、帰ってくる」
「……ぜったい?」
「……ああ」
茉子は義勇をジーッと見たあと、手を離した。
「……#dn=1#、いってらっしゃいできる」
「……そうか。えらいな」
「うん!」
「……行ってくる」
義勇は立ち上がり、歩き出す。
「はやくかえってきてね!」
「……わかった」
義勇の姿が見えなくなるまで、茉子はその背中を見送っていた。
数日後。
予定していた任務にさらに追加がなされ、思ったより時間がかかってしまった。
(……茉子は、怒っているだろうか。泣いているかもしれない)
義勇は足早に蝶屋敷へと向かった。
「あ、義勇さん。おかえりなさい」
向かった先にいたのは、元通りの姿の茉子だった。
いつもの一角で薬草を干している。
義勇は小さく息を吐いた。
「……何ともないのか」
「はい、全然なんとも。すみません、なんだか色々大変だったみたいで……」
「覚えていないのか」
「……はい」
茉子は申し訳なさそうに視線を逸らしたあと「あ!」と声を上げた。
「義勇さん、簪持ってませんか?」
「……?ああ……」
義勇は思い出したように、懐から簪を取り出した。
茉子は目を輝かせる。
「良かった……!ありがとうございます!」
茉子は簪を受け取り、その場で挿した。
「その、子ども?になってた時のことは全然覚えてないんですけど、簪は、義勇さんに預けたような気がしてて……」
「…………」
「絶対なくしたくないものだったから……良かったです」
義勇は少し黙ったあと
「……そうか」
それだけ言った。
「それにしても、屋敷内のみんなに聞いても、誰も詳しく教えてくれないんですよ。大変だったっていうことしか。何が大変だったんでしょう?我儘でした?」
「……いや……」
「………?」
「……大変ではあった」
「…………」
「……だが、悪くはなかった」
「……え?ほんとに?」
茉子は首を傾げた。
「あ、そういえば」
茉子はそう言って、床に置かれていた松ぼっくりを手に取った。
「これ、置いてあったんですけど」
「それはお前のだ」
「え?私の?」
「葉っぱも」
「え??」
「全て山で拾ったものだ」
「……誰が……?」
「お前が」
「……………」
茉子は松ぼっくりをもう一度見たあと、義勇を見た。
「……本当に、子どもだったんですね」
「……そうだな」
「……でも、悪くなかったんですよね?信じますよ?」
そう言われた義勇は、少しだけ沈黙した。
「……ああ」
けれど、その声に曇りはなかった。
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一度やってみたかった、ご都合血鬼術。勢いで書いてしまいました。
これはあれです。私の大好物、『待つ義勇』です笑 あと、ぎゆうって呼び捨てにされるの、実は嬉しいんじゃないかな、と思ってます。
幼児化夢主が、「なんで?」ばっかりだったり、花とか虫見つけてちっとも前に進まないくだり書いてる時が一番楽しかったです笑
2026.10.2