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番外編
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それは、二人で任務遂行をしている際に起こった。
「……っ!」
茉子が鬼の頸を斬った瞬間、鬼の身体から大量の煙が放出された。
鬼はそれを最期に、塵となって消えた。
「茉子!」
義勇は、その煙を払いながら茉子の元へと向かった。
「………?」
しかしそこにいたのは、隊服に身を包んだ小さな女の子だった。
その大きな瞳で見つめられた義勇は、思わず目を見開いた。
「みて!これ、かわいい!」
女の子が握っているのは、簪。
淡い水色の小花に、少し大きめの白い花がひとつ。
足元には、日輪刀が落ちている。
淡い水色の刀。
茉子のものだ。
「…………」
そしてその顔には、明らかに茉子の面影があった。
義勇はその場に立ち尽くす。
「……茉子……?」
「そうだよ!おにいさん、だーれ?」
「……わからないのか?」
小さな茉子は、首を傾げた。
「わかんない」
「…………」
(何なんだこれは……血鬼術か……?思い出せば、元に戻るのか……?)
義勇は戸惑いながら、口を開いた。
「…….冨岡義勇だ」
「……おみおか?」
「冨岡、義勇」
「ぎゆう!」
「………!」
茉子は義勇の名前を呼び、にこにこと笑った。
「#dn=1#、かえりたい」
「……そうだな、それがいい」
(……ひとまず胡蝶に見せて……)
義勇はそこまで考えて、思わずため息を吐いた。
『これはどういうことなんでしょうか。説明してくれます?冨岡さん』
笑顔で詰め寄ってくるしのぶが、容易に想像できる。
「ぎゆう?どうしたの?つかれたの?」
「あ、いや……」
「なんでためいきついたの?」
「……なんでもない」
「なんで?」
「…………」
子供の扱いには、慣れていない。
「……歩けるか」
「あるける!」
「……そうか」
義勇は、茉子の日輪刀を鞘に収め、拾い上げた。
「それ、なーに?」
「……刀だ」
「かたな?だれの?」
「………」
「#dn=1#がもちたい!」
「ダメだ」
「なんで?」
「……危ないからだ」
「ぎゆうはもってていいの?」
「ああ」
「なんで?」
「………」
義勇が黙ると、幼い茉子は歩き出した。
当然、歩幅も小さい。
「…………」
これでは、いつ蝶屋敷に着くかわかったものではない。
「……茉子、無理なら……」
「あるけるの!」
「…………」
これ以上言うと、機嫌を損ねそうだ。
義勇は茉子に合わせ、ゆっくりと歩いた。
しかし、ここは足場があまりよくない山道。
幼い茉子が歩くのには不向きだった。
「あっ!」
茉子は足を滑らせる。
義勇は瞬時に茉子の体を支えた。
「………」
幼い茉子はキョトンとしたあと、義勇の顔を見た。
「……大丈夫か」
「うん!ありがとう!」
「……ああ」
「ぎゆう、うごくのすごくはやいね!」
「……そうか」
「うん!ヒーローみたい!かっこいー!」
茉子はそう言って笑ったあと、そのまま義勇の手を掴む。
「……?」
「おてて、おおきいね!」
「…………」
茉子は、反対の手で簪を握りしめたままだった。
「……持ったままでは危ないだろう」
義勇は簪を預かろうと、手を繋いでいない方の手を伸ばした。
「だめ!これは、#dn=1#のだから!」
「…………」
義勇はまた、ため息を吐いた。
「……刺さったら危ないだろう」
「もうころばないもん。ぎゆういるから」
「…………」
義勇は説得を諦めた。
しかし数歩歩いたあと、義勇は再び足を止めて口を開く。
「……預からせてくれ」
「……あずかる?」
茉子は首を傾げた。
「あずかるってなに?」
「……今だけ、俺が持つ。あとでお前に返す」
「…………」
茉子は、まっすぐな瞳で義勇を見つめた。
「……いまだけね」
「……ああ」
「それ、#dn=1#のだいじなやつだからね」
「……ああ」
「こわしたら、だめだからね」
「…………」
「ね?」
「……わかった」
顔を覗き込まれて「ね?」まで言われては、返事をするしかない。
(……何だ。この「本当に大丈夫かな?」みたいな顔は……)
少々腑に落ちない。
茉子はしばらく義勇の顔を見たあと、手を繋いだまま歩き出した。
「あ!おはなだ!」
茉子はしゃがみこんで、桃色の花を眺めた。
その花に手を伸ばしかけて、止まる。
「ぬいたら、おはな、いたいかな?」
「………そうだな」
「そっか……」
茉子は立ち上がった。
「おはなさん、ばいばーい」
そして花に手を振って、数歩。
「あ!むし!」
「……………。」
「ぎゆう!みて!」
「……ダンゴムシだな」
「みて!つかまえた!ねぇ、みて!」
「……………………」
その後も、大きな石を見つけては義勇に見せ、葉っぱ、松ぼっくり、どんぐり……と続いた。
「あ!」
「………」
気づけば、茉子の「あ!」で自然と足を止めるまでになっていた。
「ながい、えだだね!」
「……ああ」
「かたなみたいだね!」
「……そうだな」
「ぎゆうにあげる!」
「……もう持てないぞ」
「なんで?」
「手がいっぱいだ」
「…………」
義勇の片手には、石やら葉っぱやら。
「枝を持つなら、他のものは置いていく」
「……うーん……」
「…………」
「かたなは、もってるから、いっか」
茉子はそう言って、枝は拾わなかった。
「ぎゆう、つよいの?」
「……どうだろうな」
「ぎゆう、なんさい?」
「……21」
「にじゅうって、どのくらい?」
「……お前はいくつだ」
「#dn=1#はね、3さい」
「……そうか」
「ぎゆう、なんさいだっけ?」
「………21」
「にじゅう?」
「……3よりは多い」
「えー!ぎゆうすごいねっ」
茉子はずっと喋っている。
話すのは苦手だ。
けれど、不思議とこの時間は苦痛ではなかった。
やがて、茉子の足取りが重くなっていく。
「……疲れたのか」
「……ちがうもん」
茉子はそう言いながら目を擦った。
「眠いのか」
「ねむくない!」
「…………」
「#dn=1#、ねむくないっ」
「……わかった」
(……子どもというものは、難しいな)
義勇はそう思いながら、茉子と歩く。
また数歩歩いたところで、足が止まった。
「……ぎゆう……」
「……どうした」
義勇も足を止めた。
「………」
「……?」
茉子は両手を伸ばした。
「……だっこ」
義勇は思わず目を点にしたが、その場にしゃがんで茉子を抱え、また立ち上がった。
「すごぉぉい!たかーーい!!」
手を伸ばし、木の枝を掴もうとする茉子。
キャッキャと嬉しそうにしている。
「ぎゆう、おっきいねぇ!」
「……そうか」
「なんで?」
「……大人だからだ」
「いっぱいたべるの?」
「……普通だ」
「#dn=1#も、いっぱいたべたらおおきくなれる?」
「……ああ」
「ぎゆう、なにがすき?」
「……鮭大根」
「しゃけだいこん?」
「……ああ」
「#dn=1#はね、えっとね……」
「……………」
「………んっとね…………」
「……………」
「…………」
茉子の体が少し重くなる。
見れば、いつの間にか目を閉じ、小さな寝息を立てていた。
「…………」
義勇は小さく息を吐いた。
(……走るか……)
起きてまたこの調子で歩かれては、敵わない。
義勇は小さな茉子を抱いたまま、走って山を降りた。