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5.帰る場所
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蝶屋敷へ戻った頃には、すっかり日が高くなっていた。
「ただいま戻りました」
そう言いながら、屋敷の中へと入る。
今日の蝶屋敷は、静かだった。
茉子はまっすぐ、いつもの一角へと向かう。
「……」
一つ息を吐き、そのまま腰を下ろした。
ふと、懐から簪を取り出す。
淡い水色の小花に、白い花がひとつ。
「……綺麗……」
小さく呟く。
簪は、つけたことがない。
髪は肩程の長さであったし、今までずっとしのぶからもらった蝶のピアスをつけていた。
それで十分だと思っていた。
義勇の家に行くまでの道のりで、一瞬見かけたあの店。
綺麗な簪の数々に目を奪われた。
ただ、それだけだった。
『昼に、見ていただろう』
その簪に、指先でそっと触れる。
『……似合うと思った』
思い出すのは、昨夜の言葉。
「……」
少しだけ、胸の奥がくすぐったい。
けれど、それだけじゃない。
「…………」
伸びた自分の髪をねじって、まとめてみる。
(……こうすれば、挿せるかな?)
「…………」
(……これで……会いに行くってことは……)
小さく首を振った。
(触れたい理由と、我慢してる理由……)
そっと、ねじっていた髪を解く。
(……わかってない、や……)
大切そうに、両手で包む。
「……大事にしなきゃ」
この場所にいれば、心を落ち着かせられる。
茉子は、澄んだ青空をぼんやりと眺めた。
ふと、その時。
「茉子ちゃぁぁぁん!!」
外から、騒がしい声が響いた。
「……あ」
久しぶりに聞く声。
相変わらずの高音に、思わず苦笑する。
茉子は再び簪を懐にしまい、門の方へと向かった。