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4.静水に咲く
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夜。
二人は同じ部屋にいた。
並んで食事をとる。
ここまではいつも通りだった。
突然「失礼します」と女将がやって来てから、状況が変わる。
「こちらの事情で部屋をいくつか使うことになり、大変申し訳ないのですが、本日はお二人でこちらのお部屋をお使い下さい」
そう言って、頭を下げていった。
茉子は咄嗟に「大丈夫です、気にしないで下さい」と言ったが、戸が閉められて静かになった途端、ピタリと動きを止めた。
「……あれ?」
(……ん?こういうのって……?任務では何回も一緒にいる……けど……)
茉子は義勇を見る。
「……えっと……」
「事情があるなら仕方ない。俺は座ってても眠れる」
「だ、だめです!ちゃんと寝ないとっ……」
茉子はそう言いながら「あ!」と声を出した。
「思い出しました!」
「……何を」
「鬼殺隊になる頃、しのぶ様からマッチを持たされて」
「………?」
「変な隊服を渡されたら、これで燃やしなさいって言われて」
「………」
「あと、男の人に安易に付いて行くのはだめだって。お世話になってるしとか困ってそうだしとか関係ないって。例え相手が同じ鬼殺隊でもそれはだめだって」
「……そうか」
「安心できる人だけを信じなさいって」
茉子はそう言って義勇の顔を見つめた。
「…ってことは、義勇さんは安心できる人だから、大丈夫ってことですよね!」
「………」
(……なぜそうなる?)
今度は義勇の動きが止まる。
少しの沈黙。
「……安心できる人間かどうかは、俺が決めることじゃない」
それを聞いた茉子は、まっすぐ義勇を見た。
「私はそう思ってます」
全く疑いのないその瞳。
「……そうか」
それ以上は言えなかった。
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布団二組。
拳二つ分くらい、間を空けて。
灯を消して、茉子は何の迷いもなく布団に入った。
「……一応確認だが、お前はそれでいいのか」
「え?はい」
「……そうか」
(……違うだろう……)
義勇は天井を見た。
(……いや、違わないのか……?)
視線を茉子に向ける。
「朝も夜も一緒にいたことはたくさんありますけど、布団並べて寝るのは初めてですね」
ニコッと笑うその姿を見て、思わず少しため息が出た。
(……やはり違うな。俺はそんな安全な男ではない)
目を逸らし、再び天井を見た。
「……義勇さんって、お花詳しいんですね」
茉子はぽつりと言う。
「……?いや、花のことはよくわからないが…」
「そうですか?今日、一目見て芍薬だって言ってたから詳しいなと思って」
義勇は小さく息を吸った。
「……芍薬は、知っている花だった」
「好きな花?」
そう聞かれ、少し沈黙が流れる。
「……昔、よく見ていた」
「そうでしたか」
それしか言わない。
茉子もそれ以上は聞かない。
「……私にとっては、憧れの花です」
「……そうか」
それしか言わない。
義勇もまた、それ以上は聞かない。
「……義勇さんは、いつも私を信じてくれる」
茉子はそう言って目を閉じる。
「私に、力をくれる……」
口調がどんどん、ゆっくりになる。
「私も、何か…できたらいいんだけどなぁ……」
それを最後に、茉子は静かに寝息を立てた。
(……寝た……)
義勇はそっと、茉子に視線を向ける。
寝顔はいつもより少し幼く見える。安心しきった顔。
(……何かできたら、か)
「……十分だ」
小さな声で答える。
「……茉子」
手を伸ばせば届く距離。
だが、その手は自身の布団の中から伸びることはなかった。
「……おやすみ」