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4.静水に咲く
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帰り道。
義勇の腰にも、見慣れた日輪刀が戻っていた。
いつもの竹林の場所で、足を止める。
「抜いてみろ」
「……はい」
刀が陽の光に照らされる。
茉子の手は僅かに震えている。
まだ少し、緊張が残っている。
義勇はそれを見逃さない。
「構えろ」
「えっ……?」
義勇はそう言って既に刀を構えている。
戸惑う茉子を、まっすぐ目で捕えている。
「打って来い」
真剣での稽古。
木刀とは全く違う緊張感。
茉子は視線を外したあと、
静かに義勇に向き合い、構えた。
「……行きます」
キン、と刀が交わる。
(……すごい……
刃が自然と流れに乗って進むような……)
速さに頼らない。
押し合わない。
相手の力を使って流す。
「……悪くないな」
義勇はそう言って一度距離を取る。
「露の呼吸を、乗せてみろ」
「……!」
茉子は、刀を握る自分の手元を見つめる。
露の呼吸は、速さ一点突破。
速さを前に出さない今の動き。
これで使うとどうなるのか。
日々の稽古についていくのに夢中で、
そこまで考えられていなかった。
(でも、なんだか……)
茉子は顔を上げる。
(……使える、気がする……)
「行きます……!」
茉子は踏み込む。
速い。
そして、音がほとんどない。
遅れて、空気が震える。
義勇の視界の中で——
白い花弁が、静かに開いた。
一瞬。
まるで水面に落ちた雫が、
ゆっくりと円を広げるように。
白い芍薬。
義勇の視線が、わずかに揺れた。
(……あの花は……)
——子供の頃の記憶が、鮮やかに蘇る。
縁側。
幼い義勇。
姉の蔦子が、庭の花を指差す。
「これが芍薬。綺麗でしょう?」
小さな義勇は首を傾げる。
「しゃくやく?」
「義勇の誕生花」
「たんじょうばな?」
蔦子は笑う。
「生まれた日にちなんだ花があるの」
「へぇ」
「強くて、でも優しい花。義勇みたいだね」
小さな手を、そっと撫でる。
その笑顔のまま、
蔦子の姿は血に染まった記憶へと切り替わる——
祝言前夜。
崩れ落ちる白無垢。
守れなかった背中。
義勇は、ゆっくり瞬きをする。
目の前にいるのは、
白い芍薬を咲かせた茉子。
竹が音もなく割れて、遅れて落ちる。
義勇は、目を大きくしたまま
言葉を発することができなかった。
「……義勇さん……?」
義勇は、割れた竹を見る。
そして、割れ目に指を滑らせた。
そこでようやっと、口を開く。
「……芍薬だ」
茉子は目を丸くした。
「……芍薬って、花の……?」
義勇は黙ったまま、刀を納めた。
「……忘れるな」
それだけ言って。
風が吹き、竹林が揺れる。
白い花弁はもう消えている。
だが、今、確かに——
静かな水面に、花がひとつ咲いた。