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4.静水に咲く
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木刀が何度も打ち合わされる。
「……少し、速さを乗せてみろ」
そう言われた茉子は、また踏み込む。
ほんの少しだけ速さを乗せる。
全力ではない。
削るほどでもない。
だが、今までより鋭い。
カン、と強い音が響く。
義勇はその攻撃を、流さずに真正面から受ける。
「……今のは悪くない」
短い評価。
茉子の目が、わずかに輝く。
「だが」
木刀が、茉子の手首を軽く叩く。
「軸が浮いた」
「っ……!」
「速さを足すな。速さが“ついてくる”形にしろ」
茉子は息を整える。
(速さが、ついてくる……?)
もう一度。
今度は“先に”速さを出さない。
間を見る。
軸を見る。
そして——踏み込む。
今度は、速さが遅れて追いつく。
義勇の木刀が、わずかに遅れる。
カン、と澄んだ音。
義勇の視線が、わずかに鋭くなる。
「……それだ」
今度は、はっきりと。
「……え…っと……」
「考えるな。感じろ」
その言葉に、茉子の足が止まる。
「……感じる?」
義勇は一歩踏み込む。
「お前は、見ている」
カン、と木刀が交わる。
「鬼の性質、癖、間……それはお前が実践で“感じて”いることだ」
義勇は、一切無駄のない動きで、カンカンと木刀で打ってくる。
「それを、速さで潰すな」
茉子の目が、揺れる。
自分が、何をしていたのか。
何を捨てていたのか。
ほんの少し、理解が追いつきかける。
義勇は一瞬だけ距離を詰める。
「……焦るな」
低い声。
木刀の先が、茉子の喉元に届く。
昨日とは違う。
削るな、じゃない。
そう。焦っていたのかもしれない。
早く戦えるようにならなきゃ
早く力をつけなきゃ
早く勝てるようにならなきゃ
そうやっていろんなことを溢しながら
体を削ってきたのかもしれない。
茉子は思わず膝をつく。
息が切れている。
けれど、震えたり、めまいがするようなことはない。
「もう終わりか」
静かな声。
茉子は息を荒げたまま、顔を上げる。
立ち上がろうとして、足がわずかにふらつく。
その瞬間、義勇は木刀を持ち替えた。
木刀の柄が、茉子の肩を軽く支える。
「無理はするな」
「してません」
即答。
義勇の目が、ほんのわずかに細くなる。
「……そうか」
だが、木刀はどかさない。
「お前はもう、削ってはいない」
その一言で、茉子は止まる。
昨日、突き刺さった言葉。
でも今は、違う。
「今のは、“積んで”いる」
茉子の瞳が揺れる。
「……もう一回」
声が、さっきより静かだ。
焦りがない。
義勇は、わずかに頷く。
「——来い」