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4.静水に咲く
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茉子は、木刀を一本取り、構える。
足を踏み込もうとして——
止まる。
(……あと一回で折れていた)
振り下ろせない。
今までなら、迷わなかった。
でも。
(今までのじゃ……だめなのかな……)
ゆっくりと木刀を下ろす。
竹林の隙間から差し込む光が、足元を照らす。
(……じゃあ……どうやって戦うの?)
速さを捨てたら、何が残る?
握る手が、わずかに震える。
——その時。
「……何をしている」
聞き慣れたその声に、茉子は肩を揺らす。
振り返らないまま答える。
「……少しだけ、振ろうかと」
「今か」
責めるでもなく、止めるでもない。
ただ、確認。
茉子は木刀を握り直す。
「感覚が鈍るのが嫌で」
義勇は、少しだけ間を置く。
「焦るな」
それだけしか言わない。
短い。
けれど、重い。
「焦っていません」
核心を突かれると、少し強く言い返してしまう。
義勇は、茉子の木刀ではなく、茉子の呼吸を見る。
「……なら」
一歩近づく。
「その呼吸は何だ」
茉子の動きが止まる。
「………」
「整っていない」
怒ってはいない。
ただ一言、指摘する。
「振るなとは言わない」
「………」
「整えてからにしろ」
そして義勇は背を向けて歩き出した。
茉子は木刀を握ったまま動かない。
振ろうとして——止まる。
(……整っていない)
言われた言葉が、胸に引っかかる。
一度、深く息を吸う。
胸は痛まない。
でも、呼吸が浅いことに気づく。
迷いがある。
無意識に、体を庇っている。
「……っ」
木刀を下ろす。
完全に納得したわけじゃない。
悔しさもある。
でも。
(……今振っても、きっと違う)
茉子は竹林の中に立ったまま、目を閉じる。
ゆっくりと、呼吸を整え始める。
義勇は振り返らない。
けれど、
足を止めていた。
ほんの一瞬だけ。