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3.隣に立つ理由
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その日の夕方。
義勇は蝶屋敷を訪れた。
屋敷は広い。
ゆっくりと廊下を歩く。
「……茉子っすか?」
後ろからの後藤の声に、義勇は足を止めた。
「だいたいいつも、そこの奥行って曲がったところの一角にいますよ。裏口側です」
「……そうか」
義勇は再び歩き出す。
「……あの」
義勇は静かに振り返る。
「俺みたいなのが、柱に何か言える立場じゃないのはわかってます」
沈黙が流れる。
(……この話をしたら、怒られるかもしれねぇ。でも)
後藤は、ゆっくりと息を吸った。
「あいつ、どうしても花の呼吸が使えなくて。
一時は、隠の仕事をしてました。
でも、負傷して戻ってくる隊士たちを見て
間に合わなかった人たちを見て
“こうなる前に助けたい”って。
戦いに行くって言い出したんです。
胡蝶様もだいぶ止めてました。
……いや、あの時はガチでした。
あの時の空気、ヤバかったっす。
……それでも、聞かなかった」
後藤は視線を伏せる。
「幼い弟が、鬼に殺されるのを目の前で見てたそうです。声も出なくて、体も動かなかったって。
……その時、8歳ですよ。あいつ」
少し間を置いて、後藤は続けた。
「でも、水柱様と任務に行くようになってから、茉子は穏やかでした。
必要なんだと思ったんです。水柱様が。
それに……大事にされてるのも、見てました」
後藤は顔を上げる。
「これは、あいつの“兄”として言います」
数秒の沈黙のあと、続ける。
「次、茉子が倒れたら——
“知らなかった”は、通らねぇ」
後藤は軽く頭を下げ、踵を返した。
「……承知した」
義勇はそう答え、再び歩き出した。
