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——山の夜は、静かすぎる。
風も、虫の声も、村の気配も。
すべてが、均されている。
鬼は、木々の影に溶けながら“聞いて”いた。
音ではない。
匂いでもない。
呼吸の“間”。
人間は皆、同じように息をする。
恐怖、疲労、油断——
どれも浅く、乱れて、わかりやすい。
つまらない。
次の瞬間、
井戸の水を汲む茉子が、鬼の視界に入る。
(……鬼狩りの女か。
そこそこ能力もありそうだ。
まぁ、食ってやってもいいが……)
だが。
(……この女……他とは違う……)
これは、ずれていない呼吸。
深すぎず、浅すぎず。
力みも、怯えもない。
研ぎ澄まされた刃のように、細く、静か。
鬼は、思わず“返した”。
同じ間で。
同じ圧で。
同じ静けさで。
すると
——ちゃぷ
(……揺れた)
ほんの一拍。
ほんの一瞬。
茉子は、
ずらしたタイミングで“返された”呼吸が合わず、
かすかに息を乱す。
鬼は、笑った。
(……これだ)
整いすぎているがゆえに、ずれに弱い呼吸。
鬼は、音もなく距離を詰める。
(これほど壊しがいのある呼吸は、久しぶりだ……)
鬼の意識が、完全に定まった。
その瞬間。
水の気配が、わずかに動いた。
鬼は、舌打ちする。
(……面倒なのがいるな……)
だがもう遅い。
狙いは、決まった。
