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6.陽だまり
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そして、数日が経った。
「わぁ……!」
駅を降りた茉子は、思わず口を開いた。
高い建物が並ぶ街並み。
人通りが多く、いつも暮らしている土地とは変わっていた。
「すごいですね、私一人ならきっと迷っちゃいます」
ふふ、と笑う茉子。
「……そうか」
義勇はそう言って、茉子の手を取った。
汽車に乗っている時も、窓側がいいと言って外を眺め、何かを見つけては義勇に報告していた。
(……楽しそうだな)
鬼殺隊の頃は、基本走って移動していた。
汽車に乗る機会もなかったのだろう。
「帰り、あっちの方も行ってみたいです」
「……ああ」
二人は並んで、街の中を歩いた。
しばらく歩くと、義勇が足を止めた。
「……ここだ」
「ここ?」
茉子が見上げる。
そこには宝飾店があった。
「……え、ちょっと待って。緊張します……」
高級感溢れる佇まいに思わずそう言ったが、義勇はそのまま店の中へと入っていく。
茉子も戸惑いながら、後に続いた。
「いらっしゃいませ」
茉子は軽く会釈をして、義勇の側へと寄った。
店員の女性は小さく「あら」と声を上げた。
「先日はありがとうございました。お渡しになれたんですね」
ニコニコと笑うその女性は、茉子を見ながらそう言った。
「あ、はい……っ」
茉子は少しはにかみながら、左手の指輪を見る。
「こちらをお出しした時は、すぐにお決めになったので、よく覚えております」
「……そうなんですか?」
「ええ。それまでは、どれをお見せしてもなかなか頷いていただけなくて」
「…………」
茉子は隣の義勇を見る。
「若い方への贈り物なら、もう少し華やかなものも、とおすすめしたんですが」
店員は、茉子の指輪を見て笑った。
「こちらの方がお好きだろう、と」
「…………」
茉子はショーケースの中に飾られている指輪を見たあと、もう一度、自分の左手を見る。
「とてもお似合いです」
「あ、ありがとうございます……!」
「本日は、結婚指輪でしょうか」
「……そうだ」
結婚指輪。
これも、天元から聞いた話だった。
あの後、茉子が「私も義勇さんに何か贈りたい」と言った。
いらないと答えたが、やはり引かなかった。
それならばと、天元から聞いた結婚指輪の話をしたのだ。
「シンプルなものがお好きでしょうか。それでしたら……」
店員の女性はそう言って、何種類か指輪を選んでくれる。
「これ、綺麗ですね」
「……ああ」
「指輪って、たくさん種類があるんですね」
「……そうだな」
二人は指輪を見ながらそんな会話をする。
「では、こちらはいかがでしょう」
細身の銀色で、緩やかな曲線を描く指輪だった。
「「あ」」
二人の声が重なった。
「こちらは、こうして重ねますと……」
店員が二つの指輪を並べる。
緩やかな曲線が互いに沿い、ひとつの流れを描くように重なった。
「…………」
茉子は指輪を見つめた。
隣を見ると、義勇も同じようにそれを見ている。
もう一度、二人の視線が合った。
店員はニコニコと笑う。
「こちらになさいますか」
「……はい」
茉子が答えると、義勇も隣で小さく頷いた。
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それから間もなく、二人は正式に夫婦となった。
夫婦になったことは、世話になった人たちに文で知らせた。
後日、改めて挨拶に出向くつもりだった。
特別なことは、何もなかった。
結納、祝言——。
互いに家族がいない二人は、そういった形式をとらず、静かに夫婦になることを選んだ。
いつもの家で、いつものように食事をして、同じ布団で眠る。
ただ、二人の左手には、お揃いの指輪が増えた。
そして、数日後——
「「「ごめんくださーーい!」」」
それは、聞き慣れた人たちの声だった。
茉子は玄関へと向かい、戸を開けた。
「「茉子、おめでとう!!」」
「「「茉子さん、おめでとうです!!」」」
「……みんな……!」
そこにいたのは、カナヲとアオイ。
それに、なほ、きよ、すみ。
「来てくれるって書いてたけど、早く茉子に会いたくて」
「カナヲ……」
「あの人にも知らせなきゃってね、探して連れてきちゃった」
アオイの言葉に、茉子は「え?」と声を上げる。
「……よぉ」
後藤は、後ろからひょこっと顔を出した。
「後藤さん……!」
茉子は思わず駆け寄った。
鬼殺隊は解散している。
隠や、他の隊員たちも、それぞれ別の道を歩んでいた。
当然後藤にも知らせたかったのだが、居場所がわからず報告できずにいたのだ。
「おわっ、やめろお前、一応人妻だろ!」
距離感ゼロの茉子に、後藤はそう言って一歩下がる。
「何ですか、それ」
「そのまんまだよ」
「なんで?怪我した時とか、背負ってくれたじゃないですか」
「それは仕事だっつの」
「でも、後藤さん。私のお兄ちゃんなんでしょ?」
「…………」
後藤は一瞬言葉を詰まらせたあと、吹き出して笑った。
「なんか、昔のお前みたいだな」
「へ?」
「蝶屋敷来て色々訓練してた時のお前だよ。納得いかないことにはまぁこうやってああだこうだ言ってたもんな」
「……そ、そうでしたっけ……」
「そうだよ。いつからか聞き分け良くなったフリするようになってたけどな」
「…………」
「それで水さんと仲良くやれてんなら、良かったよ」
「……後藤さん」
「何だよ」
「ちゃんとやってますよ」
「……賑やかだな」
聞き慣れた声が、背後から返ってきた。
茉子は目を瞬いて振り返る。
「義勇さん」
いつの間にか、義勇がそこに立っていた。
「あ、水さん!結婚おめでとうございます」
「「「「「おめでとうございます!」」」」」
後藤がそう言うと、蝶屋敷面々も口を揃えた。
「……ありがとう」
義勇はそう言って笑った。
全員、一瞬目を丸くした。
「あ、そうそう!祝言は?いつ頃挙げるの?」
アオイが言うと、茉子と義勇は視線を合わせる。
「えっと、そういうのは特に予定してなくて……」
それを聞いた途端、なほ、きよ、すみは口を開いた。
「なんでですか?!」
「えー!祝言見たいです!」
「茉子さんの白無垢見たい〜!」
「えっ……?」
「……茉子」
カナヲは静かに口を開いた。
「私たちもだし、姉さんたちもきっと、そう思ってるよ」
その一言に、茉子はハッとした。
——姉さん。
カナエと、しのぶ。
2人の顔が、ふっと浮かんだ。
「…………」
カナヲは、ニコッと笑った。
「お花の準備は、私たちに任せて」
その言葉を聞いて、茉子の瞳は揺れた。
後藤はそんな茉子の顔をちらりと見る。
「……ま、立ち話もなんだし。とりあえず中入ろうぜ」
後藤はそう言うと、「おじゃましまーす」と茉子の横を通り抜けていく。
「あ、ちょっと後藤さん!」
茉子は思わず笑った。
「……もう。みんなもどうぞ」
「「「「お邪魔しまぁす」」」」
茉子に促され、カナヲたちも後に続いた。
「今、お茶淹れるね」
部屋に招いたあと、茉子はそう言って台所へと向かった。
その時——
「義勇さーーーん!!!」
「…………」
「あれ?」
その場にいた全員が首を傾げた。
義勇はわずかに目を細めたあと、再び玄関へと向かい、戸を開ける。
「義勇さん!!ご結婚おめでとうございます!」
「義勇さんと茉子ちゃんの結婚……嬉しいですっ」
「ついに茉子ちゃんも……!あ、おめでとうございます!」
「おお半々羽織!ケッコンしたのか!!」
炭治郎、禰󠄀豆子、善逸、伊之助。
赤飯を持って並んでいた。
「……?ありがとう」
よくわからないまま、赤飯を受け取る義勇。
「文には、来てくれるって書いてたけど、お兄ちゃんったら、すぐ行くって聞かなくって」
「そういう禰󠄀豆子ちゃんも、行く行くって言ってたよねぇ?」
「で、ケッコンってなんなんだ?」
「義勇さん、祝言はいつですか?!」
自由に喋る四人。
「……いや、祝言は……」
義勇がそう答えかけた時、炭治郎、禰󠄀豆子、善逸は、飛びつくように口を開く。
「義勇さん!祝言やりますよね義勇さん!」
「ですです!茉子ちゃんの白無垢姿、見たいですよね?」
「絶対見といた方がいい!目に焼き付けた方がいいと思います!!」
「おお、なんだか知らねぇが、やっとけ!」
「…………」
あまりの勢いに言葉を失う義勇。
「あ、そうだ!義勇さんのおうち、道場みたいな場所ありましたよね?そこ会場にして、みんな呼ぶのはどうだろう?」
「わ!お兄ちゃん、いい考え!」
「えぇ?!家の中に道場あんのぉ?!」
「腹減った!中入ろうぜ!」
やんややんや言いながら、四人は家の中へと入っていく。
「………義勇」
中に入っていく四人を見ていると、背後から名を呼ばれ、義勇は振り返った。
「先生……!」
そして、鱗滝の後ろには——
「よう!冨岡!」
「「「どうも〜!!」」」
天元と、三人嫁たち。
「祝言くらい派手にやれよ!あのーあれだ、白無垢の手配とか、知り合いに頼んでやっからよ」
「……皆、祝いたいのだろう。義勇」
「…………」
義勇は沈黙したあと、軽く会釈した。
「……あ、鱗滝様!」
茉子は玄関から顔を出し、声を上げた。
「……元気そうだな、茉子」
「はい……!」
そして——
「宇髄様も……!」
「よ!」
「茉子ちゃん、やっほー!」
「新規開拓より、こっちのが早かったね」
「おめでとう!」
宇髄家の四人を見て、茉子はふふっと笑った。
「さーて、俺たちもお邪魔すっかぁ」
天元たちはそう言って、家の中へと入っていった。
部屋へ戻ると、既に祝言の話で盛り上がっていた。
「お花は私たちで用意します!」
「料理も必要だよね」
「俺も手伝います!料理は火加減!」
「儂も、義勇の好物なら」
「おお!で、俺は何すりゃいいんだ!」
次々と話が進んでいく。
「…………」
茉子はしばらくその様子を眺めていたが、やがて隣に立つ義勇を見上げた。
「……義勇さん」
「…………」
義勇は答えず、部屋の中へ視線を向けた。
それから、茉子を見る。
「……祝ってもらうのも、いいのかもしれない」
「……義勇さんも、そう思います?」
「……ああ」
茉子は少し驚いたように目を瞬いたあと、嬉しそうに笑った。