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6.陽だまり
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朝。
茉子は、ゆっくりと目を開けた。
まだ少し眠い。
ぼんやりとした視界の中で、最初に見えたのは見慣れない寝間着。
「…………」
頬を寄せているのは、義勇の胸元。
いつものように、すぐ近くにいる。
「…………」
茉子は瞬きをした。
(……あれ)
ここは家ではない。
昨日の記憶が、少しずつ戻ってくる。
温泉。夕餉。夜の散歩。
それから——
『やだ。離れたくない』
「…………っ」
一気に目が覚めた。
顔が熱くなる。
けれど、茉子はその場から動かない。
「………また、やっちゃった……」
茉子は小さな声で呟く。
本当に、自分にしか聞こえないぐらいの声で。
「……起きたのか」
頭の上から声がした。
「…………」
茉子は恐る恐る顔を上げる。
「……はい」
義勇は、もう目を覚ましていた。
「……いつから起きてました?」
「……少し前から」
「……なんでいっつも、先に起きてるの……?」
「…………」
外からは、小鳥の囀りが聞こえてくる。
「……あの」
「……何だ」
茉子は、視線を落とす。
「……その……恥ずかしくて、嫌じゃなかった……?」
自分が言ったことも、してしまったことも、もう仕方がないと思っている。
言わされたにしても、眠たさのあまりのことだったにしても、自分がしたことだ。
ただ、それで義勇が嫌な思いをしたのなら、話は別だった。
「……なぜ、そう思う」
「なぜって……みんなの前で、困るかな、とか……」
「…………」
困ってなどいない。
むしろ——
義勇はわずかに身動いだあと、口を開いた。
「……困っていない」
「……ほんと?」
「……ああ」
義勇は少しだけ視線を落とした。
「……嬉しかった」
「…………」
茉子は固まったあと、バッと顔を上げて義勇を見た。
「え……っ?!」
「…………」
茉子は、また顔が熱くなるのを感じた。
「……起きるぞ」
「…………」
茉子は一度、義勇の胸元へ視線を落とした。
「……もうちょっと」
「…………」
「……だめ?」
「……いや」
義勇の腕が、僅かに茉子を引き寄せる。
「……いい」
その言葉に、茉子は微笑む。
そしてもう一度、義勇の胸元へ頬を寄せた。
しばらくして、茉子の背にあった義勇の左腕がゆっくりと動いた。
「…………」
その手が、布団の上に出ていた茉子の手に触れる。
「……?」
茉子は顔を上げた。
「……義勇さん?」
「…………」
義勇は答えず、その手に視線を落としている。
茉子もつられるように自分の手を見た。
「……手、どうかしました?」
「……いや」
「………?」
茉子にはよくわからなかったが、そのまま義勇の手を握り返した。
「…………」
義勇も、それ以上は何も言わなかった。
「……そろそろ、起きましょうか。朝の温泉も気持ちよさそう」
茉子は顔を上げ、体を起こそうとした。
「………っ」
離れかけた体が、再び引き寄せられる。
「……え?」
茉子は目を瞬いて、義勇を見る。
「…………」
義勇は動かない。
茉子は数秒考えたあと、ふふっと笑った。
「……もうちょっと?」
沈黙のあと、一言だけ。
「……ああ」
その言葉を聞くと、茉子は両腕で義勇を抱きしめた。
そのあと、茉子は朝風呂へ。
朝餉を済ませる頃には、山の中にもすっかり陽が昇っていた。
朝餉で宇髄家と顔を合わせた時こそ、昨夜のことを思い出して少し気恥ずかしそうにしていた茉子だったが、それも束の間だった。
話が弾むうち、いつの間にかいつもの調子で笑っていた。
時が経ち、それぞれ帰る時刻がやってくる。
「あー楽しかった!また一緒に来ようね!」
「おすすめの温泉探しとくからさ!」
「一緒に新規開拓もいいかもしれないわね」
「嬉しいです!」
三人嫁たちと仲良くなり、すっかり馴染んでいる茉子。
「冨岡」
「………?」
「ほら」
天元から差し出されたのは、小さく折り畳まれた紙だった。
義勇は受け取り、開く。
「…………」
道らしき線と、いくつかの印。
その先に、大きく丸がつけられている。
豪快な地図だ。
「……何だ、これは」
「昨日言った店だよ」
「…………」
「なんだよその顔。これでわかんだろ?」
「……わからない」
「なんでだよ!」
天元はそう言いながら、地図を指差していく。
「これが駅だろ?で、こっち曲がって行くと大通り」
「………」
「ここら辺だったと思うんだが、嫁たちが揃って『違う!こっちの通り!』っつーから、多分この辺だ。とりあえずこの道歩いてりゃわかる」
義勇はそれを聞きながら地図を見る。
「…………」
そして、ふと顔を上げた。
「宇髄」
「あ?」
「……ありがとう」
その言葉に、天元は目を丸くする。
しかし、すぐにフッと笑みを浮かべた。
「……場所は、よくわからないが」
「お前な」
義勇は地図を折り畳み、懐へしまった。
ちょうどその時、茉子が駆け寄ってくる。
「義勇さん、そろそろ……って、あ、すみません。お話中でしたか」
義勇と天元は顔を見合わせる。
「いいや?なんでもねぇよ」
「……ああ」
「………?」
茉子は少し不思議そうに二人を見たものの、それ以上は何も聞かなかった。
「茉子ちゃーん!」
嫁たちの声に、茉子が振り返る。
「あ、はい!」
それぞれ帰る支度を整え、宿を後にする。
「またねー!」
「絶対また来ようね!」
「今度はもっといいところ探しておくから!」
「はい!また絶対!」
茉子も大きく手を振り返した。
「じゃあな、冨岡」
「……ああ」
「あと……」
天元は、茉子に視線をやった。
「またな、茉子」
「……っ」
目を丸くする茉子を背に、天元は嫁たちの元へと向かっていった。
「…………」
その場に立ち尽くす茉子。
「……宇髄様に物申すの、忘れてました」
「必要あるのか」
「……ない、のかも」
二人は顔を見合わせ、笑った。