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6.陽だまり
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食事を終え、しばらく話していた頃。
「茉子ちゃん、ちょっと外行かない?」
「外?」
「ここ、夜になると星が綺麗なのよ」
「ほんと?!見たいです!」
「蛍も綺麗なんだよね〜!」
「見たい!」
「行こ行こ〜!」
茉子は立ち上がりかけて、ふと義勇を見る。
「義勇さんも行きます?」
「……いや。俺はいい」
「そうですか?じゃあ、ちょっと行ってきますね」
「……ああ」
三人に連れられ、茉子も部屋を出ていった。
戸が締まり、四人の笑い声が遠くなっていく。
「…………」
天元はその背中を見送ったあと、義勇へ視線を戻した。
「……飲むか?」
「……ああ」
天元は、一升瓶に入った酒を注ぐ。
「アイツら、楽しそうだな」
「……いつもこうなのか?」
「ま、三人で騒がしいっちゃあ騒がしいけどよ。今日は一段と盛り上がってんな」
「……そうか」
義勇は一口、酒を飲んだ。
「………旨い」
「だろー?」
天元もまあ、そう言って一口飲んだ。
「で?」
「………?」
「籍は?入れねぇの?」
「………」
「宙ぶらりんもかわいそうなんじゃねぇの?ま、本人はそこまで気にしてなさそうだけどな」
義勇は静かに、盃を見ていた。
「………ちゃんとしたいとは、ずっと思っている」
「ほぉ。で?」
「………ただ、俺は痣者だ」
「…………」
「………俺がいなくなったあとも、茉子には長く生きていて欲しい」
「…………」
「……幸せでいてほしい」
「…………」
「……だが、その先で、他に縁があるかもしれない」
「なるほどねぇ」
「……俺と一度、婚姻関係を結んでしまったら……」
義勇はそこまで言って、一度止まった。
天元は、静かに盃に酒を注ぐ。
「……いや、これは自惚れかもしれない」
「そんなことねぇよ。多分合ってる」
天元はそう言って、小さく笑う。
「つまりアレか。自分が死んだあともずっと、アイツが一人でいるだろうなっていうのが心配なわけだ」
「…………」
義勇はわずかに、俯いた。
「……痣の話は俺も聞いたが……仮にそれが本当だったとしても、そもそも人間の寿命なんて誰にもわかんねぇだろ。元気だった奴が急に死ぬことだってあるんだしよ」
「…………」
妻たちと共に忍として生きてきた天元。
死と隣り合わせの生活を送りながらも、妻たちを大切にしてきた。
「でも、今更じゃねえ?」
「………?」
「籍入れようが入れまいが、もうお前のことしか選ばない。そういう女だろ」
「……………」
そう言われ、一緒に過ごして来た日々を思い出す。
——そんなことはない。
今までならそう言ったかも知れない。
けれど——
「…………そう……かもしれない……」
それを聞いた天元は、ハハッと笑った。
「じゃあ、迷うことねぇだろ」
「…………」
「お前一人で決めることでもねぇし」
「…………」
義勇は、盃を手に取った。
「……そうだな」
そのまま一口、酒を飲む。
「で、どうすんだ?」
「……何が」
「何がってお前。言うなら何か用意すんだろ」
「…………」
「簪でもやりゃいいんじゃねぇの?」
「……もう渡した」
「あ?」
「……いつも挿している」
天元は一瞬考えたあと、ああ、と声を上げた。
「あれ、お前がやったのか」
「……ああ」
淡い水色の小花に、少し大きめの白い花がひとつ、静かに咲く簪。
茉子が動くたび、水色の小花が揺れる。
あの日からずっと、今も変わらず挿している。
「じゃあ、もっといいの買ってやりゃいいだろ」
「……いらない」
「なんでだよ」
「……あれでいい」
「…………」
「茉子も、気に入っている」
天元は少しだけ目を細めた。
「じゃあ……あれだ。指輪にでもするか」
「……指輪?」
義勇が顔を上げる。
「知らねぇのか?最近じゃ、婚約の時に指輪を贈る奴もいるらしいぜ」
「…………」
「まぁ、まだ珍しいけどな。ハイカラってやつだ」
義勇はしばらく黙ったあと、自分の左手へ視線を落とした。
「……どこで買える」
「お?」
「……指輪だ」
天元は目を丸くしたあと、ニヤリと笑った。
思わず背中を叩く。
「なんだ。やる気じゃねぇか!」
「………痛い」
「あーわりぃわりぃ」
天元はまた、ハハッと声を出して笑った。
「店なら知ってる。あとで教えてやる。……ああ、あと!」
「……?」
「渡し方も少しは考えろよ」
「……渡し方?」
「場所とか、時とかだよ」
「………」
「女はそういうの気にするっつーからよ」
「………」
「お前は言えりゃそれでいいかもしれねぇけど、アイツにとっちゃ一生に一度だろ」
「…………」
「少しくらい考えてやれ」
「……ああ」
それからしばらく、二人は静かに酒を飲んだ。
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やがて、遠くから賑やかな声が聞こえてきた。
「あ、見て!まだあそこにもいる!」
「ほんとだ〜!」
四人の声が少しずつ近づいてきて、戸が開く。
「「「戻りましたー!」」」
「おう」
天元と義勇は、視線を上げた。
「……………」
「………?」
茉子は義勇を見るなり、すっとその元へと向かい、義勇の前で立ち止まった。
「……どうした」
「…………」
茉子は黙ったまま腰を下ろし、義勇にきゅっと抱きつく。
「……茉子?」
「……義勇さん、いつもと違う匂いする……」
「……ああ、酒の匂いか。すまない」
「ううん、いいの……」
「「「「…………………」」」」
その様を、宇髄家は黙って見ていた。
いや、黙って見ているしかなかった。
「…………」
義勇の口元が、一瞬だけ緩む。
天元がその表情を捉えた次の瞬間、義勇はふいと顔を逸らした。
抱きついたまま動かない茉子に、義勇は小さく息を吐く。
「……茉子」
「やだ。離れたくない」
「……そんなことは言っていない」
茉子は安心したように、さらに義勇へ体を寄せる。
「………」
義勇は僅かに迷ったあと、左腕を茉子の背へ回した。その腕に包まれると、茉子の体からふっと力が抜ける。
やがて、茉子が小さな寝息を立て始めた。
「「「「………………え?」」」」
目が点になる宇髄家。
「……おい、なんだこりゃ。説明しろ冨岡」
「……寝た」
「いやそれは見りゃわかるわ!」
「茉子は、疲れるとすぐ寝る。朝まで起きない」
「あ、そう……。じゃねぇよ!それより前だよ!」
「あれかなぁ?いっつも一緒に寝てるから、つい、みたいな?」
「冨岡さんといると安心するって言ってたものね」
「疲れさせちゃったか!」
三人は顔を見合わせる。
「じゃあ、私たちも戻りましょうか」
「そうだね。茉子ちゃん起こしたらかわいそうだし」
天元は息を吐き
「布団でも敷いといてやれ」
そう言い残して、戸を開けた。
「はいはーい」
「茉子ちゃん、起こさないようにね」
「起きないらしいけどね?」
三人は手早く布団を敷くと、「じゃあまた明日」と笑って部屋を出ていった。
「…………」
義勇は、腕の中で眠る茉子へ視線を落とした。